契約夫婦を解消したはずなのに、凄腕パイロットは私を捕らえて離さない

　決して再会した娘に対し、お金を貸してというような父でいてほしくなかったよ。少しでもいいから頑張ったんだなって褒めてくれたら嬉しかったのに……。

「どうしてお父さんは、今も昔と変わっていないの？　お願いだから、大好きだった頃のお父さんに戻って」

「凪咲……」

　顔を上げた父は、苦しそうに私を見つめる。

　どうか私の気持ちが届いてほしい。何度も心の中で願い続けること数十秒、苦悶の表情を浮かべた後、鋭い眼差しを私に向けた。

「うるさい！　お前に俺のなにがわかるって言うんだ！　お前がこうして立派に働けているのはな、俺が苦労して稼いだ金で育ててやったからだろうが！　だったら黙って金を出せばいいんだ！」

　ロビー中に響く声にびっくりして、一歩後ろに後退りした。周囲も驚き、さっきまで騒がしかったのに一瞬シンと静まり返る。だけど父は頭に血が上っているようで、私を何度も指差しながら怒鳴り続けた。

「俺はなにも変わっていない！　変わったのはお前たちのほうだろう!!　凪咲も母さんも、勝手に俺から離れていきやがって……！　俺が今までどれほど惨めで苦しい思いをしてきたと思っているんだ！」