契約夫婦を解消したはずなのに、凄腕パイロットは私を捕らえて離さない
 それを言ったら父だって知らないでしょ? 私と母がどれだけ我慢に我慢をし続けてきたか。離婚後だって母とふたりで苦労しながら生きてきた。

 でもどんな苦労も父がいない生活は幸せそのもので、やっと穏やかに毎日笑いながら過ごせることが、どんなに嬉しかったか……。

「お父さんがそんなだから、私とお母さんは耐えきれなくなったんだよ?」

「なにっ……」

 昔のつらい記憶が蘇り、ポロポロと涙が溢れだす。

「信じていた人に裏切られてつらかったのは、お父さんだけじゃない。それをどうしてわかってくれないの? 私とお母さんのためにも、また一からやり直そうって思ってくれなかったの?」

 少しでもその気持ちがあったなら、私たち家族は今も仲良く暮らせていたのに。どんなに貧乏だっていい、ふたりがいればどんな苦労にも耐えられる自信があったのに……。

 拭っても涙が止まらぬ中、父は再び声を荒らげた。

「黙れ! 一番つらかったのは俺だ。そんなこともわからないお前は、俺の娘じゃないっ!」

「痛っ」

 爪が肌に食い込むほど強い力で手首を握られ、苦痛に顔が歪む。
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