契約夫婦を解消したはずなのに、凄腕パイロットは私を捕らえて離さない
 周囲から悲鳴が上がってもなお、父は私に暴言を浴びせ続けた。だけどその言葉がまったく耳に入ってこない。

 父が変わる可能性はもうないだろう。こんなに訴えても結局は自分のことしか考えていない。本当のことを言われたら激昂するだけだもの。

 なぜこんなにも変わってしまったのかな。昔は優しくて叱る時だって声を荒らげたりしなかったのに。

「おい、聞いているのか!」

さらに強い力で掴まれ、顔を上げようとしたその時。

「いてててっ」

 苦痛の声を上げると父は掴んでいた私の手首を離した。突然のことに混乱する中、急に視界が真っ暗になる。

「悪い、遅くなって」

 ギューッと優しく私を抱きしめた人の声は誠吾さんだった。

「誠吾、さん?」

 どうして誠吾さんがここに? ますますパニックになる。
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