契約夫婦を解消したはずなのに、凄腕パイロットは私を捕らえて離さない
誠吾さんが父のことを〝お義父さん〟と呼んだこと。私を助けて抱きしめたことや、父から守っていたことなどから、誠吾さんの妻は実は私だったのではないかという話で持ち切りだったようだ。

 それを聞いて、一日中ずっと感じていた今までとは違う視線の正体がやっと理解できた。

『私もその場面が見たかった!』と嘆く真琴の隣で、私は複雑な気持ちになった。

父とのあの最悪なやり取りが広まらなかったことには安堵したけど、誠吾さんとの噂が広まっているのもまずい気がする。

 すぐに誠吾さんに連絡をしたけど、彼は『そのまま噂を流せておけばいい。離婚した元夫婦より、結婚していたと噂されるほうがいいし、俺にとってはなにかと好都合だ。あとは俺が噂を事実にすればいいだけ』なんて言う。

 だけど実際、誠吾さんが理不尽な父親に悩まされる妻である私を助けたという武勇伝が美化され、大きく話が広まったことで以前より仕事がやりやすくなった。

 先輩たちも少しずつ私に話しかけてくれるようになったし、陰口を言われることも避けられることもなくなった。

 誠吾さんの妻かもしれないというだけで、こんなにもみんなの反応が変わるのにもびっくりしたけど、だけど私にとっては願ったりかなったりだ。
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