契約夫婦を解消したはずなのに、凄腕パイロットは私を捕らえて離さない
「愛妻家って噂は本当だったのね。人事でさえ噂の出所が私だって見つけることができなかったのに、たどり着いちゃったんだから。もう二度と凪咲を悲しませるようなことはするなって釘を刺されちゃったわ」

 嘘、本当に? 誠吾さん、そんなこと一言も言っていなかったよ?

 にわかには信じることができず、目を瞬かせてしまう。

「あまりに一方的に言うから、私も悔しくなっちゃって言い返したの。その時に真実を知ったわ。……鮎川さんも苦労してやっと夢を掴んだのね」

「もってことは、金城さんも……?」

 思わず聞き返すと彼女は小さく頷き、海に目を向ける。

「幼い頃に父が亡くなり、母子家庭で育ったの。貧しい生活でたくさんのことを我慢してきたわ。でもね、苦労もしたけど、愛情たっぷりに育ててくれた母には感謝している。だから私は母には楽な生活をさせてあげたくて、真田さんとの結婚を狙っていたの。勝ち組になって母と贅沢したい。その思いだけだった」

 親孝行をしたいって気持ちは同じでただ、その方法が違っただけ。母を思う気持ちは同じだったんだ。
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