契約夫婦を解消したはずなのに、凄腕パイロットは私を捕らえて離さない
「高校も大学も奨学金で進学して、塾に通う余裕なんてなかったから、とにかく勉強に明け暮れたわ。こんなに苦労してCAになったのは自分だけだと思っていたけど、鮎川さんもなかなか苦労したのね」

「いいえ、そんな……」

 たしかに苦労はしたかもしれないけど、私は誠吾さんに出会えたことで人生が変わった。それからはただ、幸せな日々だったから。

「だから調子がいいって言われるのを覚悟で言わせてもらう」

 そう前置きをして、金城さんは真剣な面持ちで私を見つめた。

「これまでの償いとして、わからないことがあったらなんでも聞いてほしい。これからも鮎川さんの先輩でいさせてください」

 正直、金城さんにされたことを許せるかって聞かれたら、すぐには即答することはできない。でも彼女は反省して、こうして謝罪してくれた。仕事面ではすごく尊敬できるし、見習いたいところがたくさんある。

 それにずっと許さないままでいるより、先輩後輩としての関係を築いていったほうが断然いい。

「もちろんです。これからもご指導のほどよろしくお願いします」

「鮎川さん……」

 私の答えを聞いて金城さんは目を潤ませた。
< 206 / 236 >

この作品をシェア

pagetop