契約夫婦を解消したはずなのに、凄腕パイロットは私を捕らえて離さない
 数日後にはふたりで結婚指輪を買いに行き、そのまま入籍を果たした。真田凪咲となった私が真っ先に向かった先は、誠吾さんの祖父が入院する病院だった。

 お揃いの結婚指輪を付けて入った病室には、彼の祖父がベッドに横たわっていて起き上がる力も残っていない状態だった。

 視力も落ちているのかぼんやりとしか見えないようだけれど、誠吾さんの口から私と結婚したことを伝えられると、泣きながら喜んでくれた。幸せな家庭を築いてほしいと懇願し、そして私には手を握って「誠吾をよろしくお願いします」と訴えた。

 こんなにも、私と誠吾さんの結婚を喜んでくれている祖父の姿を見て胸が痛かった。

 だって私と誠吾さんは契約上の関係。わたしには誠吾さんを幸せにしてほしいという祖父の願いを叶えることができないのだから。

 だけどそれを知った上で受け入れた契約結婚だ。せめて祖父の前では精いっぱい彼の妻として振る舞おうと誓った。

 私は誠吾さんが仕事で来られない日も、ひとりで足繁く祖父のもとへ通った。寝ている時間が多く、言葉を交わせたのはごく僅かだったけれど、目を覚ました時に私がいると祖父はとても喜んでくれた。
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