契約夫婦を解消したはずなのに、凄腕パイロットは私を捕らえて離さない
 真琴からパイロットの王子様には奥さんがいて、周囲に惚気るほど一筋だという話も聞いていた。
 だから私もどんなに素敵な人だろうと、会うのを楽しみにしていた。

 五年前にちゃんと私との離婚は成立しているわけだし、再婚していたってなんら問題はない。
 それなのに、どうしてこうも胸がモヤモヤするんだろう。

 いや、きっとあれのせいだ。…フライトを終えた私にわざわざ誠吾さんから声をかけてきた時、彼は私に対して「はじめまして」と言ったんだ。

 そりゃ両親が離婚したから私の苗字は夏目から鮎川(あゆかわ)に変わったし、当時に比べたら少しは大人っぽくなったと思う。

 それでもたった三ヶ月とはいえ、一度は結婚した相手のことを忘れるもの? 私は一目で誠吾さんだって気づいたのに。
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