契約夫婦を解消したはずなのに、凄腕パイロットは私を捕らえて離さない
「凪咲?」

 急に頭を下げた私に、誠吾さんは戸惑いの声を上げる。だけど私は顔を上げることなく続けた。

「今の私がいるのは、誠吾さんのおかげです。本当にありがとうございました」

「……凪咲」

 ゆっくりと顔を上げ、戸惑う彼に笑顔で伝える。

「誠吾さんと出会うことができなかったら、私と母は今、どんな生活をしていたか……」

「いや、それをいったら俺のほうこそ凪咲に感謝している。じいさんの心配を払拭して最後は笑顔で見送ることができたんだから」

「それにしたって私のほうが対価をもらいすぎです。……それにお母さんから聞きました。離婚後もなにかと私たちのことを気にかけてくれていたと。誠吾さん、さっきは私と同じ職場で働くことになって驚いたって言っていましたけど、お母さんから聞いて知っていましたよね?」

 すると彼は気まずそうに目を泳がせた。

「なんだ、聞いていたのか」

「はい、ちょうど仕事終わりにお母さんから電話があって、誠吾さんに会う直前に聞きました。すぐにお礼を言うべきだったのに、遅くなってしまってごめんなさい。本当にありがとうございました。誠吾さんのおかげで私、夢を叶えることができました」

 感謝の思いを伝えると、誠吾さんは照れくさそうに頭を掻いた。
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