契約夫婦を解消したはずなのに、凄腕パイロットは私を捕らえて離さない
「そういうの苦手だからやめてくれ」

「感謝されることがですか?」

「あぁ。だから凪咲の母さんにも口止めしておいたんだ」

 そう、だったんだ。私が知る彼は完璧な大人の男性だったからちょっと意外。

「誠吾さんにも苦手なものがあったんですね」

「当たり前だろ? 俺にだって苦手なもののひとつやふたつくらいはある。そういうの、今後はちゃんと覚えてくれ」

「え? 今後、ですか?」

 意味深な彼の言葉にドキッとなる。そんな私の気持ちに気づいているのか、誠吾さんはただなにも言わずに微笑むだけ。

 返答に困る中、誠吾さんはクスリと笑みを零して再び珈琲を飲む。

「俺たちが初めて会った日のことを覚えているか?」

「はい、もちろんです」

 忘れるわけがない。誠吾さんに助けてもらうことができなかったら私は一生あの日の自分の決断を後悔していたと思う。

「凪咲は偶然の出会いだと思っていると思うけど、俺は運命の出会いだったと今でも信じている」

 また私の心を乱すようなことをサラッと言い、誠吾さんは真っ直ぐに私を見つめた。
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