契約夫婦を解消したはずなのに、凄腕パイロットは私を捕らえて離さない
 母の気持ちを思うと私まで泣きそうになる。

「安心して、凪咲にはいっさい危害がいかないようにするから。だからあなたは勉強に集中してちょうだい」

 わかってる、それが母の願いだってことは。だけどこのまま私はなにもしなくていいの? 母ひとりだけに苦労を背負わせたまま、私だけ夢に向かって突き進んでもいいのだろうか。

 その答えは出ないまま、私はただ母を安心させるように「うん」と返事をするしかできなかった。

 それから私と母は借金取りに怯える日々を過ごしながらも、父が変わってくれることを祈っていたけれど……。

 十日後、学校を終えて帰ってきた時のことだった。玄関のドアを開けようとした瞬間、ガラスのようなものが割れる音が聞こえてきた。

 そして母の叫び声が聞こえてきて私は急いで家に入った。

「お母さん!?」

 ドアを開けた先に見えた光景は、両親の周りに割れたお酒の瓶の破片が散らばっていて、母は頬を押さえて倒れ込んでおり、そんな母を父は興奮した様子で見下ろしていた。

 だけど私が家に入るや否や父は舌打ちをして、出かけていった。すれ違った際に父からアルコール臭がして、また朝から飲んでいたのだと瞬時に理解した。

「お母さん、大丈夫?」

 すぐに駆け寄ったものの、母の髪は乱れていて頬は赤く腫れている。もしかして……。

「お父さんにやられたの?」

 恐る恐る聞くと、母の身体がわずかに反応した。

 なにも言わない母に確信に変わる。
< 6 / 236 >

この作品をシェア

pagetop