契約夫婦を解消したはずなのに、凄腕パイロットは私を捕らえて離さない
 これまでどんなに暴言を吐いたって、父が母に暴力を振るうことはなかった。それなのに手を出したなんて……。もうだめだよ、どんなに願ったって父が昔のように戻ることはない。

「とにかく手当てをしないと。待ってて、お母さん」

 急いで救急箱を取りに行き、母の傷の手当てに取りかかる。
 頬だけではなく腕も強く掴まれたのか、あざができていた。

「ごめんね、凪咲」

 私の手当てを受けながら涙を流す母に、私は大きく首を横に振る。

「お母さんはなにも悪くないんだから謝らないで」

 悪いのは全部父だ。信頼していた人に裏切られたことがショックだったのはわかるけれど、それが母を傷つけていい理由になんてならない。

 かといって借金がある以上、父と離婚したって母が苦労するだけだ。だったら早く借金を返済して、父と離婚するのが一番いい。
 三年間、ずっと母は頑張り続けてきてくれた。今度は私が頑張る番だ。

 そう意気込んで手っ取り早くお金を稼げる方法を模索し、すぐさま行動に出た私はすぐに後悔することになる。
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