契約夫婦を解消したはずなのに、凄腕パイロットは私を捕らえて離さない
「凪咲がなぜ謙遜しているのか、食事をしながら聞こうじゃないか」

「おもしろい話ではありませんよ?」

「凪咲の話なら、どんな些細な話でも聞きたいんだ」

 車を発車させた彼は優しい声色で言うものだから、ドキッとしてしまう。

 誠吾さんは、不意打ちで聞いたこっちが恥ずかしくなることをサラッと言う。それなのに当の本人は至って通常運転。

 ひとりでドキドキしているのがバカみたい。……そう思っているくせに一々誠吾さんの言葉や仕草、視線にドキッとしてしまう自分が本当に恨めしい。

 彼が連れてきてくれたのは、趣のある日本料亭。亡くなった誠吾さんの祖父が贔屓にしていた店らしく、女将さんが笑顔で出迎えてくれた。

 通された個室で次々と運ばれてきたのは、見た目も美しい懐石料理。すごくおいしそうだけど、いったいいくらするんだろう。

 誠吾さんと食事に行った際は、いつも彼が支払いをする。それがすごく申し訳なくて毎回払うと言っても、「俺が誘ったから」とか、「先輩に奢らせて」なんて言って拒否されてきた。
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