契約夫婦を解消したはずなのに、凄腕パイロットは私を捕らえて離さない

「人はひとりひとり個性を持っている。それなのに全員が同じサービスをしたって、すべてのお客様に満足してもらうことは不可能だと思わないか？」

「それは……そう、かもしれません」

　どんなに最高のおもてなしをしたとしても、それが不快に思う人だっているだろう。だからクレームが亡くならないんだと思う。

「十人十色なら、それだけのサービスがあってもいいはず。まぁ、金城さんのような行き過ぎたサービスはどうかと思うけどな。でも今日のお客様にはイタリア語を話せる凪咲が必要だった。凪咲が抜けた分は周りがカバーすればいい。その人にしかできないサービスもある。責任のあるチーフパーサーの立場からは手放しに褒めることはできなかったんだろうけど、きっと凪咲にしかできないことをしてほしいと思っているはずだ」

　なぜだろう。誠吾さんの言葉は不思議とストンと胸に落ちる。

「いいんでしょうか？　思うがままに動いても」

　すると彼はすぐに「あぁ。だけど一度、周りを見ることが大切だ」と答えてくれた。