契約夫婦を解消したはずなのに、凄腕パイロットは私を捕らえて離さない
「すみません、タイミングが悪かったですね。どうぞ、わらび餅です」

「ありがとうございます」

 きなこと黒蜜がかかったわらび餅と緑茶をテーブルに並べると、女将はなぜか期待した目で私の様子を窺う。

「失礼ですが、誠吾君の恋人ですか?」

「恋人って……ち、違います! 同僚です」

 すぐさま否定すれば、女将さんは残念そうに「そうですか」と呟いた。

「すみません、勝手に勘違いをしちゃって。幼い頃からご家族でよくいらしてましたけど、女性とふたりでお越しになるのは初めてなんですよ」

 そうなんだ。誠吾さんだもの、きっと私と出会う前も離婚した後も、彼女のひとりやふたり、いたに違いない。

 それでもここに連れて来てくれたのは私が初めてなんだと思うと嬉しい。……ん? なに? 嬉しいって。

 自分の感情に戸惑いを隠せずにいると、女将はため息交じりに言った。

「誠吾君のおじい様とは長い付き合いだったんですけどね、いつも言っていたんですよ。初孫だからか、特に誠吾君は可愛かったようで早く幸せになってほしいと」

 誠吾さんも祖父の願いを知っていたからこそ、私に契約結婚の話を持ちかけたのだろう。
< 90 / 236 >

この作品をシェア

pagetop