契約夫婦を解消したはずなのに、凄腕パイロットは私を捕らえて離さない
 そうだ、彼の祖父は誰よりも誠吾さんの幸せを願っていた。だから何度も私に誠吾さんのことをよろしくお願いしますって言ってくれたんだよね。

 それなのに、こうも頻繁に私が会っているのはよくないのでは? 彼の新しい出会いのチャンスを潰しているかもしれない。

 なにより私たちはもう離婚した仲だ。今はただの同僚に過ぎない。彼の祖父のためにも、私の幸せを願ってくれている母のためにも、個人的に会うのは控えたほうがいいのかも。

「すみません、突然こんな話をしてしまい」

 考え込んでいただけだけど、話を聞いて困っていると勘違いされたのか女将は申し訳なさそうに謝ってきた。

「いいえ、そんなことありません」

 すぐに言葉を返すと、女将は目を細めた。

「今は誠吾君とただの同僚という関係かもしれませんが、今後はわかりません。もし彼と特別な関係になったら、ぜひまたおふたりでいらしてくださいね」

 そんな日がくることはないとわかっていても、女将を前にしたら言えず「はい」と返事をした。
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