契約夫婦を解消したはずなのに、凄腕パイロットは私を捕らえて離さない
「ここのわらび餅、じいさんの大好物だったんだ。うまいだろ?」

「はい、とっても」

 誠吾さんもおいしそうにわらび餅を頬張る。

 会社では絶対に見ることができない顔だ。ふたりで会い続けていたら、もっと意外な一面を知ることができるはず。でもそれを知ってしまっても、私は誠吾さんを好きにならない自信があるだろうか。

 恋心がどんなものかわからない。だけど、誠吾さんは素敵な人だ。好きになる可能性は十分にあり得る。

 今の関係をずっと続けていきたいと思っていたけれど……それは不可能なのかもしれない。真琴の言うように私が誠吾さんを好きになってしまったら? ううん、自分でも気づいていなかっただけで、ずっと誠吾さんのことが好きだったら?

 そうすれば私は誠吾さんのそばにいられなくなる。だって誠吾さんは私のこと好きじゃないでしょ? 誠吾さんは優しいから心配で放っておけないだけ。

「今度、凪咲のお母さんも誘って三人で来よう」

「え?」

 びっくりする私に誠吾さんは優しい眼差しを向けて続ける。
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