契約夫婦を解消したはずなのに、凄腕パイロットは私を捕らえて離さない
「やり取りは続けていたけど、凪咲と離婚してから一度も会っていなかったからさ。久しぶりに会いたい」

 誠吾さんはどんな気持ちで言っているのだろう。きっと深い意味なんてないはず。だったら普通に「はい、わかりました」って言えばいいのに、言葉が出てこない。
 すると誠吾さんは目を伏せ、お茶を飲んだ。

「そういえば凪咲はいったい何ヵ国語マスターしているんだ?」

 ほら、話題を変えられた当たり、とくに深い意味なんてなかったんだ。ただの社交辞令だったのかも。

「えっと、日常会話程度のものも含めると五、六ヵ国語でしょうか?」

 そう答えると誠吾さんは目を見開いた。

「驚いた。そんなに話せるのか。……頑張ったんだな」

 笑顔で褒める彼に胸が苦しいほど締めつけられる。

「そんなことないです」

「どうして? すごいことだ。俺だってそんなに話せない。もっと胸を張っていい」

 誠吾さんに褒められると胸が苦しくなって、そして泣きそうになるのはなぜだろう。

 それからも他愛のない話をして、私たちは料亭を後にした。
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