君との恋の物語-mutual dependence-
決意
1人になった私は、結局どうしたらいいかわからなかった。
でも、1人で部屋に閉じこもっていてもしょうがないし…。
今日は元々旅行中の予定だったし、今日を入れて後3日間はバイトもない。
最初の日は、旅行の荷物を片付けておしまい。
のんびり過ごしていた。
次の日。
今まで、あんまり考えないようにしてたんだけど、今しかないなと思って、机の引き出しを開けた。
ここには、恒星との思い出の物が入れてあった。
その中でもこれだけは、別れてから一度も箱を開けてすらなかった。
ピンクのクロスに包まれた小さな箱。
今から半年くらい前の3月、恒星がくれた指輪。
そっか、あれからまだ半年も経ってないんだ。
そっと箱を開けて、中を見てみる。
箱の中央の切れ目の収まっている指輪は、あの日から何も変わらず綺麗なままだった。
この指輪をもらった時は、ただただ嬉しくて、誇らしくて舞い上がった。
恒星がこの指輪を買うためにどれだけ頑張ってくれていたかも知らずに。
いや、知らなかったんじゃない、わかってなかったんだ。
朝から晩まで、工場の中で見知らぬ人達と一緒に働いて、残業までして、帰ってきたらそのまま倒れ込むようにして眠る。
たったの三日間だけど、高校の卒業式を終えて大学の入学式を控えた大事な時期だったし、何よりアルバイトの経験もなかったんだもん、大変だったよね…。
これは、今私がバイトをしてるからわかることで、当時はちゃんとわかってなかった。
それに、この指輪を買うことは半年前から決めていたことのようで、私はそれを、この指輪を渡された時に聞いた。
ということは、私と恒星が別れてから今までよりも長い時間をかけて準備をしていたことになる。
改めて思い返してみて、初めて恒星がいかに意思の強い人だったかがわかった。
大学受験にしても、塾にも通わず合格していたし、高校の時の部活だって、顧問の先生や部長達にも解決できなかった問題をほとんど1人で解決してしまったって言うし…。
恒星は、頭がよくて行動力もあって、意思の強い人。
そういう意味では、私みたいに意思が弱くていつでも彼氏に寄りかかっているタイプとでは、最初から釣り合わなかったのかもしれない…。
いや、そんなこと言ったら詩乃とだって釣り合わないことになってしまう…。
できればそんなふうには考えたくない…。
引き出しの中にある物、一回全部出そう。
お揃いで持っていた物は他にも沢山あった。
手帳カバー、パスケース、ボールペン。
お揃いの物以外にも、遊びに行ったときに撮った写真、一緒に見た映画のチケット…
これ…
まだあったんだ…。
そのチケットには「君の名は?」と書かれている。
そう、初めて恒星と一緒に見た映画…。
そしてこの日、私たちは付き合うことになった。
3月12日。
この日から、私達の恋が始まった。
何も知らなかった私達は、少しずつ色んなことを知っていった。
デートして、キスをして、一つ大人になって…。
恋人であっても、自分とは別の人なんだから、考え方も違うし、すれ違ってしまうこともあった。
恒星は、その度に私と向き合って話をしてくれた。
いつだって私を受け入れてくれたし、助けてくれた。
なのに、いつからか私は、ついていけてないと感じるようになってしまった。
私は、恒星がどこかにいってしまうんじゃないかって、ただ不安だった。
でも、どうやったら追いつけるのかわからなかった…。
恒星はいつも、やりたいこともやるべきこともはっきりわかっていて、目標も持っていた。
比べて私は、大学受験を終えた途端に目標を見失ってしまった。
別々の学校に通って、会えない時間が増えた分、いつでも不安に思うようになってしまった。
いつでも、会いたいって言って欲しかった。
思い返してみたら、恒星は会いたいって言ってくれてたし、会いにもきてくれていた。
私は一体恒星の何を見てきたんだろう…。
『俺の何を見てそんなことを言ってるんだ?』
別れの間際、こんなことを言われた…。
そっか、あれはこういう意味だったんだ。
今思えば、あの時私が不安だったのは、【変化していくこと】だったんだと思う。
環境が変わって、周りの人間関係も変わって、勉強する内容も、立場も変わって、その中で、恒星の…いや、お互いの気持ちも変わっていくんじゃないかって不安だったんだ。
私がもっと、前向きでいられたら…。
例え学校が違ったって、住んでるところは近いんだから、すぐに会えるし、寂しいなら寂しいって言えば、恒星だってわかってくれたと思う。
それに、大学に行ったらそこでも新しい友達ができるんだし、勉強だって、自分で興味がある分野を選んだんだから、楽しく勉強できたはず…。
なんであんなに暗くなってたんだろ。確かに嫌なことだっていっぱいあったけど、それだけじゃなかったのに…。
挙句、あんな嘘までついて…そりゃ怒るよね…。
私は、ただ恒星にかまって欲しかっただけなんだ。
辛いフリだけして、自分から何もしなかったのもそう。
酷いこと、しちゃったな…ごめんね、恒星。
ごめんね、詩乃。
そっか…私に時間が必要だっていうのは、こういうことだったんだ。
私は、自分の何がいけなかったのかちゃんと理解して、反省しなきゃいけなかったんだ。
同時に、恒星との思い出をちゃんとしまっておかなきゃいけなかった。
ただ引き出しに詰め込んで、開けないようにしたって、だめ。
いいことも悪いことも振り返って、思い出にすることが大事だったんだ。
それから私は、2日間かけて思い出の物を一つ一つ丁寧に片付けた。
引き出しと一緒に、心の中も整理されていった。
詩乃…ごめんね。
私、もう一つやらなきゃ。
これで、思い出に決着がつけられると思うの。
それから私は、小山駅の改札に行ってみることにした。
根拠はないけどなぜか、今日、会える気がした。
駅に着いて1時間くらい改札のところにいた。
時間的には、21時くらい。
改札から恒星が出てきた。
躊躇いはしたけど、このタイミングを逃したら終わりだと思って駆け出した。
「恒星?」
後ろから声を掛けてみた。
恒星は、躊躇いがちに振り返った。
『おぅ。』
気まずそうな顔。
当たり前か。
その一言だけでまた歩き出そうとする。
「ねぇ、待って。」
呼び止めた。
ごめんね。
でも、これで最後にするから。
「ごめんね、いきなり呼び止めたりして…。」
駅でそのまま立ち話というわけにもいかないので、移動することにした。
場所は、付き合っていた頃によく一緒に座っていた公園のベンチ。
気は進まなかったけど、ここしか思いつかなかった。
『まぁ、いいけど。待ってたのか?』
待ってたよ。
根拠はないけど、会える気がしたから。
「うん、何となく、今日は会える気がしたから」
黙ってる。
何か、話さなきゃ…
「今日も、学校?」
こんな質問しか出てこなかった。
『うん。休み明けにオーディションがあるから』
「そう、なんだ。ごめんね。忙しいのに」
やっぱり、恒星はいつでも目標をしっかり持って頑張る人だもんね。
情けないな…待ち伏せまでして、まだ話したいなんて…。
「恒星は、しっかりした人だから、私と別れてからも、きっと気持ちを切り替えて前に進めてるよね?」
黙ってる。
「それに比べて私は、全然ダメで…。」
ごめんね、これで最後にするから
「私、恒星に甘えすぎだよね…。」
でも、どうしてもちゃんと話したかったの。
「でも、何だかあのまま喧嘩で終わってしまっては、ちゃんと別れられてないような気がして…」
『それで、今更何を話そうって言うんだ?』
突き放すような言い方…
「ごめん…。」
『この間、って言っても随分前だけど、君が男と一緒に歩いてるのを見たよ。俺とはもう別れているんだから、それをどうこう言うつもりはないけど、もし付き合ってるなら、俺と会っていることはその男に対して失礼じゃないか?』
そんなことあったんだ…。
「それは…そうかもしれないけど…。」
でも、ちゃんと話が…
『悪いけど、俺からはもう話すことはないんだ。俺は、さぎりだけが悪かったとは思ってない。強いて言えば、他人のことを首を突っ込んできた男が悪い。』
「そうじゃないよ…悪かったのは私。」
詩乃は、悪くない
『さぎりがそう思うならそれでもかまわない。もういいだろう?4ヶ月も前に終わった話だ。』
それじゃ、だめなの…
「私は、あの時…本当は恒星に助けて欲しくて…でも、バイトの、大久保さんのこととか、相談したら怒らせてしまったから、なにも言えなくて…私も、本当は自分が動かなきゃだめだってわかってたけど、バイトでの人間関係もあるし、どうしていいかわからなくて…」
違う、だめだ…。
さっき、ちゃんと答えを出したのに…
「ごめんね。」
私、また逃げようとしてる…。
『さぎりが今言った事も間違いではないと思うけど、さっきも言ったように、俺はさぎりだけが悪いとは思ってない。バイトのことも、ちゃんと相談に乗れなかったのも事実だし。』
「でも、それはやっぱり私が」
『今更謝ってどうしたいんだ?お前が100%悪いと罵られにきたのか?』
「ごめん、そうじゃない」
『さぎりがどういうつもりで今日俺のところに来たかは知らないけど、話すなら俺もあの時の気持ちを言うよ。それしかできないからな。』
「うん。」
ありがとう。
これが本当に最後だから、全部聞かせて。
『俺がわかってほしかったのは、俺にも事情はあるし、忙しい時だってあるってことだ。そりゃそうだよな?同い年なんだし、お互い大学に入って、新しい環境になったばかりだったんだから。』
今度は、私が黙って聞いていていた。
『だから、バイトでのことをちゃんと相談に乗れなかった俺も悪いけど、自分で考えて行動する前に(どうしよう?)だけ言われても正直腹が立ったよ。一緒に考えることはできても、俺が言ったことが全て正しい答えだとは限らないんだから。それは、わかるよな?』
「うん」
そうだよね、私、さっきまで全然わかってなかった。
『申し訳ないけど、俺にはあの時、どうしてもさぎりが自分で考えてどうにかしようとしているようには見えなかった。実際は違うのかもしれないけど。だから、あまり相談に乗る気になれなかったし、ただ(助けて)だけ言われてもどうしてほしいかもわからなかった。それには、俺が忙しかったと言うのもあるし、余裕がなかったのも事実だよ。』
ほんと、その通りだよね…。
『だからこそだろ。これからはちゃんと話をする時間を作ろうって言ったんだ。そしたら、いきなりバイト先の店長が出てきて訳の分からないことを言われた。正直腹が立たない方がおかしいと思う。で、次の日また会いにきて、(どこにもいかないで)と。どこまで甘えたら気が済むんだろうって思った。俺だけじゃなく、別の男にも甘えて、店長にも甘えて。最後にまた俺に甘える。もう、耐えられなかった。これが本音だよ。で、さぎりは今更俺に会いにきて何が言いたいんだ?』
頭ではわかっているのに、言葉にならない…。
「あの時、私が余計なこと言わなければよかったんだよね。」
そのくせ口では全然違うことを言ってしまった…落ち着かなきゃ…。
『それは違うと思う。むしろあの時また隠されていたら、後でもっと酷いことになってたと思う。』
「そっか」
そうだよね。
辛いフリして、自分では何も言わず、考えず、最後には嘘までついて…。
『さぎりは、なにがしたいんだ?別れた時のことなんて、何回話しても気分がよくなることはないんじゃないのか?』
「そうだよね…。私、なにがしたかったんだろう?」
改めて聞かれたら、わからなくなってしまった。
『違っていたら聞き流してくれていいんだけど、多分、謝ってすっきりしたかっただけなんじゃないか?』
違うって言いたかった。
でも、言えなかった…
別れているんだから、私は1人で答えを出して、前に進むべきだったんだ。
答え合わせなんて、できないのに…自分の答えが正しいのか、また恒星に委ねようとしてしまっていた…。
「そうかもしれない…。」
これしか言えなかった。
『さぎりが今考えなきゃいけないのは、今の彼氏のことだろう。俺に謝ったって、所詮は過去のことなんだし。こんな話をしていたらお互いにあの時の気持ちに戻って喧嘩になるだけだ。俺はもう、あの時のことは気にしない。だから、もういいだろう?多分、さぎりは俺に許されたかったんじゃなくて、自分に許されたかったんだと思うよ。はっきり言うけど、そんなことに新しい彼氏を巻き込んではいけないと思う。』
言わせてしまった。
ごめんなさい…。
やっぱり、会いに来るべきじゃなかった。
「…」
「そのとおりだね。ごめんね。私に必要なのは、自分で考えて、反省して、それから前に進むことだったんだね…」
自分の出した答えが正しかったかどうかなんて、すぐにわかる物じゃないもんね。
『そうだよ。さぎりは、多分最初からわかっているんだよ。目を逸らす癖がついてしまっていただけで。それは、俺にも責任があるよ。ごめん。』
え?
「どうして?」
咄嗟に聞いてしまった。
予想外すぎて、まるでわからなかった。
『付き合っていた頃、俺はさぎりに相談せずに結論を出すことが多かったからだ。もちろん、そうなるに至った理由はさぎりにもあるけど、今はおいておくとして。だから、さぎりは、自然と俺に答えを委ねるようになって言ってしまったんだと思う。』
「確かに、そうだね。」
悪かったのは、お互い様っていうのは、こういう意味だったんだ…。
恒星は、別れる瞬間まで、私のことも、自分のことも、2人のことも考えてくれてたんだね。
『だから、俺とはもう一緒にいない方がいい。俺と一緒にいたら、さぎりはどんどん自分で考えて行動できなくなっていくと思う。もし、このままじゃ嫌だと思うなら、これから自分で考える覚悟をするんだよ。それができるようになったら、今の彼氏とは一緒に考える関係を作っていけばいいんじゃないか?俺に言えるのは、ここまでだよ。』
そうだね。これで、本当に
「うん。ありがとう。」
『いや、いい。俺達が友達に戻るにはまだまだ時間がかかると思う。だから、話をするのは今日で最後にしよう。もう、会わない方がいいよ。』
さよならだね。
「わかった。最後に、一つ聞いてもいい?」
恒星には最後の最後までわがままを言ってしまったし、甘えてしまったけど、これでちゃんと別れられたと思った。
最後まで、思っていることをちゃんと言葉にできなかったけど、これは、もう2人の関係がそういうものになってしまったってことなんだと思う。
どっちが悪かったとかじゃなくて。
私が今考えなきゃいけないのは、詩乃とはちゃんと話ができるようにしようということ
恒星との恋愛は、これでおしまい。
次付き合う人は恒星じゃないんだから、ちゃんと相手のことを見て、考えなきゃだめ。
詩乃、ごめんね…。
私、もう少し1人で気持ちを整理するから。
それができたら、会いにいくね。
でも、1人で部屋に閉じこもっていてもしょうがないし…。
今日は元々旅行中の予定だったし、今日を入れて後3日間はバイトもない。
最初の日は、旅行の荷物を片付けておしまい。
のんびり過ごしていた。
次の日。
今まで、あんまり考えないようにしてたんだけど、今しかないなと思って、机の引き出しを開けた。
ここには、恒星との思い出の物が入れてあった。
その中でもこれだけは、別れてから一度も箱を開けてすらなかった。
ピンクのクロスに包まれた小さな箱。
今から半年くらい前の3月、恒星がくれた指輪。
そっか、あれからまだ半年も経ってないんだ。
そっと箱を開けて、中を見てみる。
箱の中央の切れ目の収まっている指輪は、あの日から何も変わらず綺麗なままだった。
この指輪をもらった時は、ただただ嬉しくて、誇らしくて舞い上がった。
恒星がこの指輪を買うためにどれだけ頑張ってくれていたかも知らずに。
いや、知らなかったんじゃない、わかってなかったんだ。
朝から晩まで、工場の中で見知らぬ人達と一緒に働いて、残業までして、帰ってきたらそのまま倒れ込むようにして眠る。
たったの三日間だけど、高校の卒業式を終えて大学の入学式を控えた大事な時期だったし、何よりアルバイトの経験もなかったんだもん、大変だったよね…。
これは、今私がバイトをしてるからわかることで、当時はちゃんとわかってなかった。
それに、この指輪を買うことは半年前から決めていたことのようで、私はそれを、この指輪を渡された時に聞いた。
ということは、私と恒星が別れてから今までよりも長い時間をかけて準備をしていたことになる。
改めて思い返してみて、初めて恒星がいかに意思の強い人だったかがわかった。
大学受験にしても、塾にも通わず合格していたし、高校の時の部活だって、顧問の先生や部長達にも解決できなかった問題をほとんど1人で解決してしまったって言うし…。
恒星は、頭がよくて行動力もあって、意思の強い人。
そういう意味では、私みたいに意思が弱くていつでも彼氏に寄りかかっているタイプとでは、最初から釣り合わなかったのかもしれない…。
いや、そんなこと言ったら詩乃とだって釣り合わないことになってしまう…。
できればそんなふうには考えたくない…。
引き出しの中にある物、一回全部出そう。
お揃いで持っていた物は他にも沢山あった。
手帳カバー、パスケース、ボールペン。
お揃いの物以外にも、遊びに行ったときに撮った写真、一緒に見た映画のチケット…
これ…
まだあったんだ…。
そのチケットには「君の名は?」と書かれている。
そう、初めて恒星と一緒に見た映画…。
そしてこの日、私たちは付き合うことになった。
3月12日。
この日から、私達の恋が始まった。
何も知らなかった私達は、少しずつ色んなことを知っていった。
デートして、キスをして、一つ大人になって…。
恋人であっても、自分とは別の人なんだから、考え方も違うし、すれ違ってしまうこともあった。
恒星は、その度に私と向き合って話をしてくれた。
いつだって私を受け入れてくれたし、助けてくれた。
なのに、いつからか私は、ついていけてないと感じるようになってしまった。
私は、恒星がどこかにいってしまうんじゃないかって、ただ不安だった。
でも、どうやったら追いつけるのかわからなかった…。
恒星はいつも、やりたいこともやるべきこともはっきりわかっていて、目標も持っていた。
比べて私は、大学受験を終えた途端に目標を見失ってしまった。
別々の学校に通って、会えない時間が増えた分、いつでも不安に思うようになってしまった。
いつでも、会いたいって言って欲しかった。
思い返してみたら、恒星は会いたいって言ってくれてたし、会いにもきてくれていた。
私は一体恒星の何を見てきたんだろう…。
『俺の何を見てそんなことを言ってるんだ?』
別れの間際、こんなことを言われた…。
そっか、あれはこういう意味だったんだ。
今思えば、あの時私が不安だったのは、【変化していくこと】だったんだと思う。
環境が変わって、周りの人間関係も変わって、勉強する内容も、立場も変わって、その中で、恒星の…いや、お互いの気持ちも変わっていくんじゃないかって不安だったんだ。
私がもっと、前向きでいられたら…。
例え学校が違ったって、住んでるところは近いんだから、すぐに会えるし、寂しいなら寂しいって言えば、恒星だってわかってくれたと思う。
それに、大学に行ったらそこでも新しい友達ができるんだし、勉強だって、自分で興味がある分野を選んだんだから、楽しく勉強できたはず…。
なんであんなに暗くなってたんだろ。確かに嫌なことだっていっぱいあったけど、それだけじゃなかったのに…。
挙句、あんな嘘までついて…そりゃ怒るよね…。
私は、ただ恒星にかまって欲しかっただけなんだ。
辛いフリだけして、自分から何もしなかったのもそう。
酷いこと、しちゃったな…ごめんね、恒星。
ごめんね、詩乃。
そっか…私に時間が必要だっていうのは、こういうことだったんだ。
私は、自分の何がいけなかったのかちゃんと理解して、反省しなきゃいけなかったんだ。
同時に、恒星との思い出をちゃんとしまっておかなきゃいけなかった。
ただ引き出しに詰め込んで、開けないようにしたって、だめ。
いいことも悪いことも振り返って、思い出にすることが大事だったんだ。
それから私は、2日間かけて思い出の物を一つ一つ丁寧に片付けた。
引き出しと一緒に、心の中も整理されていった。
詩乃…ごめんね。
私、もう一つやらなきゃ。
これで、思い出に決着がつけられると思うの。
それから私は、小山駅の改札に行ってみることにした。
根拠はないけどなぜか、今日、会える気がした。
駅に着いて1時間くらい改札のところにいた。
時間的には、21時くらい。
改札から恒星が出てきた。
躊躇いはしたけど、このタイミングを逃したら終わりだと思って駆け出した。
「恒星?」
後ろから声を掛けてみた。
恒星は、躊躇いがちに振り返った。
『おぅ。』
気まずそうな顔。
当たり前か。
その一言だけでまた歩き出そうとする。
「ねぇ、待って。」
呼び止めた。
ごめんね。
でも、これで最後にするから。
「ごめんね、いきなり呼び止めたりして…。」
駅でそのまま立ち話というわけにもいかないので、移動することにした。
場所は、付き合っていた頃によく一緒に座っていた公園のベンチ。
気は進まなかったけど、ここしか思いつかなかった。
『まぁ、いいけど。待ってたのか?』
待ってたよ。
根拠はないけど、会える気がしたから。
「うん、何となく、今日は会える気がしたから」
黙ってる。
何か、話さなきゃ…
「今日も、学校?」
こんな質問しか出てこなかった。
『うん。休み明けにオーディションがあるから』
「そう、なんだ。ごめんね。忙しいのに」
やっぱり、恒星はいつでも目標をしっかり持って頑張る人だもんね。
情けないな…待ち伏せまでして、まだ話したいなんて…。
「恒星は、しっかりした人だから、私と別れてからも、きっと気持ちを切り替えて前に進めてるよね?」
黙ってる。
「それに比べて私は、全然ダメで…。」
ごめんね、これで最後にするから
「私、恒星に甘えすぎだよね…。」
でも、どうしてもちゃんと話したかったの。
「でも、何だかあのまま喧嘩で終わってしまっては、ちゃんと別れられてないような気がして…」
『それで、今更何を話そうって言うんだ?』
突き放すような言い方…
「ごめん…。」
『この間、って言っても随分前だけど、君が男と一緒に歩いてるのを見たよ。俺とはもう別れているんだから、それをどうこう言うつもりはないけど、もし付き合ってるなら、俺と会っていることはその男に対して失礼じゃないか?』
そんなことあったんだ…。
「それは…そうかもしれないけど…。」
でも、ちゃんと話が…
『悪いけど、俺からはもう話すことはないんだ。俺は、さぎりだけが悪かったとは思ってない。強いて言えば、他人のことを首を突っ込んできた男が悪い。』
「そうじゃないよ…悪かったのは私。」
詩乃は、悪くない
『さぎりがそう思うならそれでもかまわない。もういいだろう?4ヶ月も前に終わった話だ。』
それじゃ、だめなの…
「私は、あの時…本当は恒星に助けて欲しくて…でも、バイトの、大久保さんのこととか、相談したら怒らせてしまったから、なにも言えなくて…私も、本当は自分が動かなきゃだめだってわかってたけど、バイトでの人間関係もあるし、どうしていいかわからなくて…」
違う、だめだ…。
さっき、ちゃんと答えを出したのに…
「ごめんね。」
私、また逃げようとしてる…。
『さぎりが今言った事も間違いではないと思うけど、さっきも言ったように、俺はさぎりだけが悪いとは思ってない。バイトのことも、ちゃんと相談に乗れなかったのも事実だし。』
「でも、それはやっぱり私が」
『今更謝ってどうしたいんだ?お前が100%悪いと罵られにきたのか?』
「ごめん、そうじゃない」
『さぎりがどういうつもりで今日俺のところに来たかは知らないけど、話すなら俺もあの時の気持ちを言うよ。それしかできないからな。』
「うん。」
ありがとう。
これが本当に最後だから、全部聞かせて。
『俺がわかってほしかったのは、俺にも事情はあるし、忙しい時だってあるってことだ。そりゃそうだよな?同い年なんだし、お互い大学に入って、新しい環境になったばかりだったんだから。』
今度は、私が黙って聞いていていた。
『だから、バイトでのことをちゃんと相談に乗れなかった俺も悪いけど、自分で考えて行動する前に(どうしよう?)だけ言われても正直腹が立ったよ。一緒に考えることはできても、俺が言ったことが全て正しい答えだとは限らないんだから。それは、わかるよな?』
「うん」
そうだよね、私、さっきまで全然わかってなかった。
『申し訳ないけど、俺にはあの時、どうしてもさぎりが自分で考えてどうにかしようとしているようには見えなかった。実際は違うのかもしれないけど。だから、あまり相談に乗る気になれなかったし、ただ(助けて)だけ言われてもどうしてほしいかもわからなかった。それには、俺が忙しかったと言うのもあるし、余裕がなかったのも事実だよ。』
ほんと、その通りだよね…。
『だからこそだろ。これからはちゃんと話をする時間を作ろうって言ったんだ。そしたら、いきなりバイト先の店長が出てきて訳の分からないことを言われた。正直腹が立たない方がおかしいと思う。で、次の日また会いにきて、(どこにもいかないで)と。どこまで甘えたら気が済むんだろうって思った。俺だけじゃなく、別の男にも甘えて、店長にも甘えて。最後にまた俺に甘える。もう、耐えられなかった。これが本音だよ。で、さぎりは今更俺に会いにきて何が言いたいんだ?』
頭ではわかっているのに、言葉にならない…。
「あの時、私が余計なこと言わなければよかったんだよね。」
そのくせ口では全然違うことを言ってしまった…落ち着かなきゃ…。
『それは違うと思う。むしろあの時また隠されていたら、後でもっと酷いことになってたと思う。』
「そっか」
そうだよね。
辛いフリして、自分では何も言わず、考えず、最後には嘘までついて…。
『さぎりは、なにがしたいんだ?別れた時のことなんて、何回話しても気分がよくなることはないんじゃないのか?』
「そうだよね…。私、なにがしたかったんだろう?」
改めて聞かれたら、わからなくなってしまった。
『違っていたら聞き流してくれていいんだけど、多分、謝ってすっきりしたかっただけなんじゃないか?』
違うって言いたかった。
でも、言えなかった…
別れているんだから、私は1人で答えを出して、前に進むべきだったんだ。
答え合わせなんて、できないのに…自分の答えが正しいのか、また恒星に委ねようとしてしまっていた…。
「そうかもしれない…。」
これしか言えなかった。
『さぎりが今考えなきゃいけないのは、今の彼氏のことだろう。俺に謝ったって、所詮は過去のことなんだし。こんな話をしていたらお互いにあの時の気持ちに戻って喧嘩になるだけだ。俺はもう、あの時のことは気にしない。だから、もういいだろう?多分、さぎりは俺に許されたかったんじゃなくて、自分に許されたかったんだと思うよ。はっきり言うけど、そんなことに新しい彼氏を巻き込んではいけないと思う。』
言わせてしまった。
ごめんなさい…。
やっぱり、会いに来るべきじゃなかった。
「…」
「そのとおりだね。ごめんね。私に必要なのは、自分で考えて、反省して、それから前に進むことだったんだね…」
自分の出した答えが正しかったかどうかなんて、すぐにわかる物じゃないもんね。
『そうだよ。さぎりは、多分最初からわかっているんだよ。目を逸らす癖がついてしまっていただけで。それは、俺にも責任があるよ。ごめん。』
え?
「どうして?」
咄嗟に聞いてしまった。
予想外すぎて、まるでわからなかった。
『付き合っていた頃、俺はさぎりに相談せずに結論を出すことが多かったからだ。もちろん、そうなるに至った理由はさぎりにもあるけど、今はおいておくとして。だから、さぎりは、自然と俺に答えを委ねるようになって言ってしまったんだと思う。』
「確かに、そうだね。」
悪かったのは、お互い様っていうのは、こういう意味だったんだ…。
恒星は、別れる瞬間まで、私のことも、自分のことも、2人のことも考えてくれてたんだね。
『だから、俺とはもう一緒にいない方がいい。俺と一緒にいたら、さぎりはどんどん自分で考えて行動できなくなっていくと思う。もし、このままじゃ嫌だと思うなら、これから自分で考える覚悟をするんだよ。それができるようになったら、今の彼氏とは一緒に考える関係を作っていけばいいんじゃないか?俺に言えるのは、ここまでだよ。』
そうだね。これで、本当に
「うん。ありがとう。」
『いや、いい。俺達が友達に戻るにはまだまだ時間がかかると思う。だから、話をするのは今日で最後にしよう。もう、会わない方がいいよ。』
さよならだね。
「わかった。最後に、一つ聞いてもいい?」
恒星には最後の最後までわがままを言ってしまったし、甘えてしまったけど、これでちゃんと別れられたと思った。
最後まで、思っていることをちゃんと言葉にできなかったけど、これは、もう2人の関係がそういうものになってしまったってことなんだと思う。
どっちが悪かったとかじゃなくて。
私が今考えなきゃいけないのは、詩乃とはちゃんと話ができるようにしようということ
恒星との恋愛は、これでおしまい。
次付き合う人は恒星じゃないんだから、ちゃんと相手のことを見て、考えなきゃだめ。
詩乃、ごめんね…。
私、もう少し1人で気持ちを整理するから。
それができたら、会いにいくね。