ゆっくり、話そうか。
もちろん、こうしたちょっとした出来事では恋心が無邪気に笑ってその体格をいっそう膨らませるが、現実を叩きつけられると一気にしぼんでしまう。
浮いたり萎んだり忙しく、その温度差は日毎に増している気がしていた。

好きって辛い。

さわさわとそよぐ風。
もくもくと綿菓子みたいな雲。
ふんわり香る日下部の甘い匂い。
夏の空気。
それらが心地よくやよいを刺激するものだから、つい、流れに任せて瞼を閉じてしまった。
体の力が抜ける。
こつんと、日下部の頭と自分の頭がぶつかったときはもう、むにゃむにゃ寝息を立てていた。

「やってくれるね」

最初から眠ってなどおらず、やよいの反応を楽しんでいた日下部が腕組みをして苦笑する。
膝より上の太ももには、完全に眠りこけているやよいの頭が乗っていて、いわゆる膝枕状態。

こんなことになる??

想定外であった。
いつまでもがちがちで、自分が目を覚ますフリでもしない限りはずっと固まったままだと日下部は思っていた。
それがものの五分と経たずにやよいは眠りに落ち、日下部の膝に崩れてきたのだ。
男としての意識、おんなとしての意識はどこへ?と、膝の上で気持ち良さそうに眠るやよいを問い詰める。
ふんわりしたやよいの髪が、唇のはしに引っ掛かって窮屈そうにしている。

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