ゆっくり、話そうか。
やよいに気付かれないよう解放してやると、指先が頬に触れた。
睫がぴくんと揺れて、頬がひくつく。
起きるかと思われたが、睡眠続行らしい。

化粧っけのない肌。

日焼け止めは欠かしていないらしく、明るい場所で見るやよいの肌は透き通るほど白い。
こんなに近くでやよいを見るのは初めてだった。

この際だから観察しようか。

ちょうど真上を向いてのんきに寝ているからいい機会とばかりに、やよいを観察し始めた。

ざっくりとした感想は、特別がつくほど可愛いわけでも美人でもない。
ただ愛らしい顔つき。
今は閉じられている瞳は黒目がちで大きくて、いつもなんでも吸収しようと言わんばかりに光を反射している。
長いとは言えない睫は普通だが、びっしり生えているため目元の輪郭を強調させていた。
額が広いせいか幼く見え、小さな鼻もそれをあおっている。

お菓子の粉?

口元に目をやるとなにか、弁当のおかずとは考えられない細かな粉がついていた。
食べ物と言えばいつもお菓子、もしくは印象的にバナナなので食事という意味での可能性は除外された。
本来なら取り除いて上げるべきだろうが、今回は付けたままにしておいてやる。

あ…、

唇を見てドクっとなった。

こんなにもピンクに染まっているとは。
化粧をしていないのにやよいの唇はピンク色で、白い肌がまた一段と色濃く見せていた。

あんなに泣かせてしまった。

キャンプの日、あの時あの瞬間まではやよいにキスしようなんて思っていなかった。
けれど、どうしても止められなかった。
やよいがいつまでも自分を見つめるから、自分もまたいつまでもやよいを見つめるから…。

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