ゆっくり、話そうか。
犯罪者発言は、なかなかに言い得て妙だった。
最低な発言だが、やよいに自分への気持ちが全くなければあんなことはしなかった。
絶対に。
だが、やよいからはいつも、溢れんばかりの自分への想いが伝わってくる。
本人は伝わらないようにしているつもりかもしれないが、それがかえって日下部には筒抜けになってしまっていた。

それがとても可愛らしくて意地らしくて、ついからかってしまうのだ。
構いたくなってしまうのだ。
フッた相手に興味など持ったこともなかった。
断ればそれで終わり。
こんなふうに距離が近付くなんて、日下部にとっては何もかもあり得ないことだった。
けれどまぁ、そろそろ起きてもらわないと困る。

「園村さん?」

やよいに声をかけ、反応を待つが眉を寄せただけで起きる気配がない。
ならばとにや付き、体を屈め、

「わっ!!」

と、耳元で大きな声を吹き掛けてやった。
跳ねたやよいが「んんんん、なに、なにっ」と寝ぼけて飛び上がり、

「……っ!」

日下部の額に思い切り、やよいの頭が刺さった。
あまりのことに声が出ない日下部。
額を押さえて「うぅ」と唸っている。
寝起き直後、近くにいる日下部、何故か耳元で大きな声もして、驚いて起きたら今の状況。
全く整理できない頭でも、日下部が額を押さえ、自分もぶつけた痛みを感じている事実だけあれば、細かな情報などなくても真っ先に対応するべきことは分かった。

なんってことやっ!
とんでもねぇぇぇっ!


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