ゆっくり、話そうか。
しかもそれが、万人受けしない怪しいものだと特に。
瞬間湯沸かし器よろしく、首まで真っ赤になってしまった。

「え…上がんないよ?」

日下部ドン引き。

えぇ、えぇ、
分かってるがな、そんなこと。

冷静に返してくる日下部に、やよいも結構な引きである。
やよいだって本気で覚醒するなんて思ってない。
ただ、入試の際のルーティーンから抜けきれないだけだ。
多少は神様お願い的な気持ちはあっても、結局は自力でいつもクリアしている。
自分にとって良い結果が出た何かは、なかなかやめられないものなのだ。

「なるほど、いつもやるんだ、こういうの」

止めてください。
掘り下げようとせんといて。

「またアホにすんの?」

「しないしない。おかしな人だなと思っただけで」

アホにしてるやん。

言い方が違うだけで、態度も雰囲気もやよいを残念扱いしている。

出来ることなら見られたくなかったし知られたくもなかった。何故自分は家の机でやらなかったのかと、マグマだまりよりも深い後悔にズブズブ沈んだ。

「じゃあ勉強教えてやれよ。効率よくやるやり方とか、テストのヤマとかさぁ。ついでに俺にも」

日下への肩に腕を回し、「親友じゃぁん」と猫なで声を出す。
成績はいつも学年トップに君臨する日下部。
その日下部に教えてもらえるとなれば、もう百人力だろう。
しかし尚太の期待とは裏腹に、首に回る腕を邪険に払った日下部の表情はそれに比例していない。
すっかりその気の尚太にげんなりした視線を送った。

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