ゆっくり、話そうか。
去年の夏休み前の事だ。
掃除当番で帰りが遅くなり、担任にごみ捨てを頼まれたやよいがごみ捨て場までの道を間違い、遠回りで旧校舎側を通ったときの事。
日下部が別れ話をしている現場に居合わせてしまったのだ。
────ごめん、もう気持ちには応えられない。好きじゃないのに付き合う事で二人に得られるものはないだろうし、無駄だと思う。期待もされたくない。もう一度好きになる努力を、俺はしたくない────
泣きじゃくる彼女を見つめ、地獄へ突き落とすかのような冷たく凍った言葉をはっきり言いきった日下部の瞳は、言葉とは真逆にとても優しく、暖かだった。
前のような気持ちをもう持っていなくても、だからといって大事じゃなくなったわけではないと思えるような。
大切にしていたことも、放った言葉の重さも辛さも、受けた彼女がどう傷付くかもちゃんと理解した上で、それでも対等でいようと誠意を示したことは、第三者のただの通りすがりでも分かるくらいだった。
好きになる努力をしたくない、その言葉がやけに胸に食い込んだ。
そうやって、ちゃんと断ってほしいと、感じてしまった。
別れ話だというのに、彼女が羨ましいと思ってしまった。
そして自分も、あんな瞳で誰かに見つめられたらどんなにいいだろうか、と胸を高鳴らせたのがきっかけだ。
その後は日下部の容姿にまんまとはまってしまったのは付け足しである。
確かに見た目は素晴らしい。
整った顔立ちなのだ。
綺麗にラインの入った二重と瞬きすれば音がしそうなくらいに長い睫、そこに引っ掛かる少し固めの髪がまたいい味を出している。
高くも低くもないがパーツに影響を及ぼしていない鼻は自分の役割を分かっているかのようだ。
そして、乾燥から見放されたかのような唇。
男前だと口にしてしまうのも無理はない。
180センチ近い身長は男前度を上げるに相応し過ぎる。
ダメ押しとばかりに、なんだかいつもいい匂いがしているパーフェクトぶり。
見かける度に目で追い、ばくばくする心臓を抑える毎日となり、授業中にうっかり日下部くん好きやわぁと呟いてしまいそうになったことに恐怖を抱いた結果、このままでは四六時中口にしてしまうかもしれないと怯えたため告白したのだ。
どんな形でもこの片想いから解放されたかったという理由が本人は不本意ではあるが。
まさか、あんなフラれ方をした後こんなに鬱陶しがられるとは…。
あの時見かけた誠意ある別れ話は、誠意を示すに値する人間にのみというのが立証された。
自分の時とは大違いである。
考えなくてもいい過ぎたことをほじくり返したおかげで傷口が悪化してしまった。
それでもあの瞳と混じりっけの無い誠実さをまだ信じたいと思ってしまう。
恋は盲目とは、まさにこの事なんだなぁと実感してしまった。
くそっ、
絶対嫌やったのに…。
掃除当番で帰りが遅くなり、担任にごみ捨てを頼まれたやよいがごみ捨て場までの道を間違い、遠回りで旧校舎側を通ったときの事。
日下部が別れ話をしている現場に居合わせてしまったのだ。
────ごめん、もう気持ちには応えられない。好きじゃないのに付き合う事で二人に得られるものはないだろうし、無駄だと思う。期待もされたくない。もう一度好きになる努力を、俺はしたくない────
泣きじゃくる彼女を見つめ、地獄へ突き落とすかのような冷たく凍った言葉をはっきり言いきった日下部の瞳は、言葉とは真逆にとても優しく、暖かだった。
前のような気持ちをもう持っていなくても、だからといって大事じゃなくなったわけではないと思えるような。
大切にしていたことも、放った言葉の重さも辛さも、受けた彼女がどう傷付くかもちゃんと理解した上で、それでも対等でいようと誠意を示したことは、第三者のただの通りすがりでも分かるくらいだった。
好きになる努力をしたくない、その言葉がやけに胸に食い込んだ。
そうやって、ちゃんと断ってほしいと、感じてしまった。
別れ話だというのに、彼女が羨ましいと思ってしまった。
そして自分も、あんな瞳で誰かに見つめられたらどんなにいいだろうか、と胸を高鳴らせたのがきっかけだ。
その後は日下部の容姿にまんまとはまってしまったのは付け足しである。
確かに見た目は素晴らしい。
整った顔立ちなのだ。
綺麗にラインの入った二重と瞬きすれば音がしそうなくらいに長い睫、そこに引っ掛かる少し固めの髪がまたいい味を出している。
高くも低くもないがパーツに影響を及ぼしていない鼻は自分の役割を分かっているかのようだ。
そして、乾燥から見放されたかのような唇。
男前だと口にしてしまうのも無理はない。
180センチ近い身長は男前度を上げるに相応し過ぎる。
ダメ押しとばかりに、なんだかいつもいい匂いがしているパーフェクトぶり。
見かける度に目で追い、ばくばくする心臓を抑える毎日となり、授業中にうっかり日下部くん好きやわぁと呟いてしまいそうになったことに恐怖を抱いた結果、このままでは四六時中口にしてしまうかもしれないと怯えたため告白したのだ。
どんな形でもこの片想いから解放されたかったという理由が本人は不本意ではあるが。
まさか、あんなフラれ方をした後こんなに鬱陶しがられるとは…。
あの時見かけた誠意ある別れ話は、誠意を示すに値する人間にのみというのが立証された。
自分の時とは大違いである。
考えなくてもいい過ぎたことをほじくり返したおかげで傷口が悪化してしまった。
それでもあの瞳と混じりっけの無い誠実さをまだ信じたいと思ってしまう。
恋は盲目とは、まさにこの事なんだなぁと実感してしまった。
くそっ、
絶対嫌やったのに…。