ゆっくり、話そうか。

女の子や…。

なので、一緒にいるのは当然女子。
日下部の影に隠れて全貌がよく見えないけれど、スカートの下からはすらりとした脚が見えていた。

「やよい、引き返そ?」

やよいの気持ちも、やよいが失恋していることも知っている万智は、これ以上は見せられないとばかりに少し強引にやよいの袖を引いた。
やよいも同感で、あれがなんにせよこれ以上は確実に傷付くことは分かっていたため、ゆっくりと後ずさった。

が、

「っ!!!」

日下部の向こうにいた女子生徒が突然、日下部に抱きついた。
背中に腕を回し、強く抱きついているのは少し離れた場所にいてもよく見える。

腰が抜け、息が詰まった。
身体中から放出された汗が、だらだら流れていくのを感じる。
酸素の行き届かない頭が真白になっていくのを感じ、呼吸も早くなる。
脳天が暑い。
喉では心臓ががなりたてついて、いつ口から飛び出してもおかしくないほどだ。
震える両手を抱き締め、とりあえず呼吸出来るよう息を整えた。
中腰だった万智が立ち上がり、体の向きを変えたのが気配で分かる。
自分も続いて腰を上げようとしたとき────

「うぅぅっわ、大胆っ」

と、後ろから声が聞こえ、驚いた万智が「尚ちゃんっ!?」と後ろへ脚を引いたと同時に、お尻がしゃがんでいたやよいの肩にぶつかった。

「え、へっ?ふやぁぁっ!!」

バランスを崩したやよいだけが押し出されるかたちで、少し前へ飛んだ。

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