ゆっくり、話そうか。
「…ごめんなさい」

女子生徒が俯く。

やよいなら俯いたりしない、とまた、やよいがちらついた。

「謝られてもね」

何に謝ってんの?

尚太と万智のベタベタする地獄から逃れるため、自然と離れてみたら呼び止められ、いつもの事かと来てみたら、この有り様だ。
今回は突然抱きつかれてしまった。
自分からはこの女子生徒に触りたくもなかった日下部は、言葉と態度で離れるように告げていた。
だが離れず、付き合ってほしいと泣く始末。
そこへの三人が現れたと言うのが一連の流れだ。

「君なら、どうしてた?」

「え…?」

重苦しい空気を裂いて、不意に声をかけられた女子生徒が顔を上げる。
そこには恐ろしいほど表情を消した日下部がいて、じっと自分を見ていた。
あまりにも凍りついた表情に、女子生徒が背筋を凍らせる。

「俺のことが好きな君は、もし俺が誰かに抱きつかれるのをさっきの子みたいに偶然見てしまったら、どうしてた?」

「…たぶんショックで、何も考えられないから逃げると思う」

そしてまた俯く。

「だろうね」

思っていた通りの答えに、つまらなさげに失笑する。

君は、彼女みたいにはしない。
できない。

「だから君とは付き合いたくない。好きにはなれない」

言いわけなどせず、悪いことをしてしまったと伝えるやよいが、たまらなかった。

また泣かせたか…。

やよいの去り際、見つけた彼女の膝の傷。
飛び出した際に砂利で傷付けてしまったらしい。
砂利だけでなく、また、やよいを傷付けたことにこんなことがしたいんじゃないと奥歯を噛み締めた。

もっと素直になれれば、今溢れている気持ちのままに行動できたら、どんなにいいだろうか…。
何度も何度もそう繰り返して、最後はそれを振り払うようにした日下部が、その場を後にした。
















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