ゆっくり、話そうか。
強いて言うなら最近雰囲気が柔らかい、ということくらいだが、それなら他の仲のいい女子にだってそうじゃないだろうか。
幸か不幸か、仲のいい女子なんか見たことはないけれど…。

「キャンプの日からかなぁ、何か気になって日下部くんを何気にチェックしてたんだけど、私達に向ける目とやよいに向ける目が明らかに違ってる気がするんだよなぁ」

キャンプと言われると、今もまだドキリとする。
後ろめたい気持ちになるというか…。
しかし、例の一件はさておくとして、万智の言うこともまぁ、納得できるところはある。
優しいと言うか、やよいの思い当たるあの日の日下部は…いつもより惹き付けられて、いつもより何を考えているか分からなかった。
ただ、いつもとは違う雰囲気にどうすればいいか分からなかったのはたしかだ。
ただそれを他の人に向けるものとは違うと言われても、まるでピンとこない。

「気のせいちゃうかな」

「そうかなぁ、結構自信あったんだけどなぁ」

気のせいでなければどんなにいいか。
瞳を捕らえて離そうとしないのは自分だけなら、どれだけいいか…。
自分だけ、それがどんなに難しいかはもう充分すぎる程感じていた。

朝、どんな顔して会ったらえぇんやろ…。

ひとまず、目下の問題はそれのみだった。

予鈴が鳴り、教室へ戻ったやよいは恐る恐る中の様子を窺う。
日下部の席に本人はいなくて、鞄だけがフックに引っ掛かっていた。
まず休むことはないだろうけれど、昨日の一件が堪えて欠席ということがなくてホッとした。

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