ゆっくり、話そうか。
マットからはいつも体がはみ出るし、後ろ向きに回転するなんて事は前向きに回れないやよいにとって、神の技に近かった。
体育に器械体操があると、万智の細みな体が綺麗に回転するのを友達サービス二割り増しのスコープ付きで、惚れ惚れして見ていた。
すねこに貼った絆創膏を無意識に擦り、持久走の次に無理な器械体操に顔を歪める。

「昨日のとこだよね、痛い?ごめんね…押しちゃって…」

その仕草に、昨日自分がお尻アタックしてしまったことを思いだした万智が、両手を合わせて拝んだ。

「万智のせいちゃうから。大丈夫大丈夫。受け身が下手くそやっただけ。痛いいうか、なんか痒い」

昨日飛び出した反動で膝は砂利で擦りむけ、手のひらにも若干の擦過傷が出来たもの、絆創膏の対応で済む程度の軽いもの。
膝は手のひらより少し深かったので絆創膏を貼ったが、皮膚に馴染んでいないのか傷というより絆創膏の接地面が痒い。
よく動かす膝だから強い粘着テープのものを選んだのに、皮膚が拒否を決め込んでいる
まぁ子供がしょっちゅう作るくらいのものなので、しばらくすればかさぶたが出来るだろう。
屈めていた腰を伸ばし、前を向いたのと、

「ちょっといい?」

万智以外の声がやよいを呼ぶのと、その声の主を確認するのはほぼ同時だった。

「あ、昨日の…」

顔はちゃんと見えてなかったから覚えていない。
声だって知らない。

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