ゆっくり、話そうか。
けれど、雰囲気と勘が間違いなくそうだと言っている。
これ落としてない?とか、落とし物のお届けとかそんな展開は期待できないことを、やよいの全身が読み解いていた。

「五組の西井といいます」

五組の西井さんは友達を数人連れていて、その友達の顔はやよいのみを凝視している。
波乱しか感じない。
万智と二人揃って、五組の西井さんにペコリとする。
日下部からかと思っていたら、別の角度からの刺客。
まさかこっちから来るとは思わなかった。
二人は内心ヒヤヒヤしながら、五組の西井さんがどうでるのか窺った。

「話したいことがあるんだけど、ちょっといい?」

「あ、はい」

やよいと万智の声がシンクロする。
万智はやよいのみを腕に絡み付き、ぎゅうぎゅうに密着していた。
切り込み方は想定内。
いくら友達の数が多くやよいを凝視していても、顔貸せや、とか、いきなりビンタなんて事は可能性としてまずあり得ない。

「なんの話ですか?」

やよいが平静を装って訊ね返すと、周りにいた友達が「え?え?」と顔を見回してくすくす笑う。
分かりきったことを確かめたのが笑いを誘ったのか、もしかして昨日の話ですかと核心に触れればよかったのか。
何にしてもいい気はしない。

「関西弁なんだ…」

小声だけどはっきり聞こえる。
はっきり聞こえなくても、はっきり聞こえる程度の小ささをあえて保っていることも。
ふふっと、何故か勝ち誇ったみたいな笑いかたに嫌な気持ちが膨らんでいく。

可愛い顔してんのに、この人は…。
五組の西井さんは苦手や。
関西弁の何が悪いねん。
しゃあないやろ。

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