ゆっくり、話そうか。
本日何回目か分からない失恋用語を追いやり、頭を数回振った。

「気い持たせ屋さんか。こんなんしてもあかんやろ」

涙を拭う振りと髪を払う振りをして窘める。
キュンとされたことはあっても本気でダメだと言われたことの無い日下部は意味が分からず呆然とする。

「あっぶないわぁ。まぁもうこれ以上好きになることはあり得へんし私が好きになることを自分に許さんけど、こんなん好きんなってしまうやん。そりゃぐらっとするわ。二度とせんといてな?こんなシチュ二度はないけど二度とせんといて?」

さっきまで泣いていたのに、涙の筋がきっちり浮かび、大きな瞳はまだ潤んでいて綺麗でもあるのに、向けられたのはただのお叱り。
独り言のような、心の声のような、そんな勢い。
本心。
もうこれ以上好きになることはない、ということはまだ少しは好きなのかと思ってしまうほどの、マックスよりどれくらい低いとこで?と確かめたくなるくらいの。

「あー、もうええわぁ。番号?えと、080××××○○○○」

早口で、聞き取れるかどうかも定かじゃない声で言い捨てると立ち上がり、日下部から離れて探し始めた。
頬が熱い、触れられたところにまだ日下部の体温が残っているように感じる。
冷えた肌との境界がくっきりしすぎていて、痛みさえ感じてしまう。
だからといってそれを拭いたくもなくて、痛みも心地よく感じて。
どうにもいたたまれず、恋心からも逃げてしまった。
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