ゆっくり、話そうか。
だがこれは日下部の事ではない。
根本的には日下部に繋がり、間接的にも関わりはあったとしても、怒りの矛先はやよいだ。
日下部に助けを求める、日下部に何とかしてもらうなど、もっての他だった。

「分かった、行くわ。おさまらんやんな」

このまま始業ベルを待ってもよかったが、それではいつまで経っても終わらない。
日下部がここに来ても面倒になるだけで、たぶんやよいも五組の西井さんも傷付くことになると思ったのだ。

「やよいっ、行くことないよ」

リンチを想像した万智が青ざめてやよいの腕を引く。
ここでいいじゃないと、勇気を振り絞って五組の西井さんに訴える。

「でも行かんと引くに引けやんと思うし。謝るなら謝らなあかんし」

「じゃあ私も行く。私も一緒にいたんだし。何なら尚ちゃんも見たんだから尚ちゃんも連れていく」

「や、寺久保くんはええわ、やめて」

あの人空気読めやんからさらに悪化する。

それだけは止めてくれと懇願したが、万智はそんなことを聞く間もなく「待ってて」と尚太を呼びに走っていってしまった。
しかしちょうどいい。

「万智戻る前に行こか」

もとより万智に用のなかった五組の西井さん達には異論はなく、さもやよいとは友達ですと言わんばかりの距離感をつくって誘導する。

「なにやってんの、あの子は」

断っていたはずなのに連行されるやよいを見て、日下部が苦々しく呟いた。
嫌な予感しかしない。
クラスメイトに断りを入れて席を立つと、やよいの後を追って廊下に出る。
そこにちょうど万智が尚太を連れて現れた。

「日下部くんっ、やよいはっ!?」

「一緒に行った」

「待っててって言ったのに!」

待たないよ、彼女は。
友達なのになんで分かんないの。
尚太呼びに行くなら何で彼女も一緒に連れていかなかったの。

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