ゆっくり、話そうか。
万智には何の責任もないのに、不快な感情が顔を覗かせる。

「とにかく行こうぜ、どっち向いて行った??」

お前らが呼び止めなきゃ間に合ってたよ。

「あっちの方」

自分でも信じられないくらいに苛立っている。
不可抗力だったあの件に対する何らかの報復をしようとする連中に、腹が怒りを通り越した嫌悪を感じる。
そこまでしてやよいを懲らしめる必要がどこにあるのだ。
尚太の言う通り、嫌ならあんな場所で呼び出さなければこんな事態にはならなかった。
それに、やよいにも腹を立てていた。

何で簡単について行ったのか。
ただの文句や、ただの事情聴取もどきで済むわけがない。
見失った自分の不甲斐なさにも忌々しさが募る。
不安を感じてこんなに心臓が騒ぐのは久しぶりで、それに押し潰されないよう、今の自分が二人にはバレないよう、日下部が駆け出した。

体育館の隣、人気の少ない部室の裏はギラギラに陽が当たっていて、上を向くだけでも光にやられてくしゃみが出そうなほどだ。
壁に追いやられ、数人に囲まれたやよいは自分より背の高い彼女たちを見上げて、ひっそりくしゃみも我慢していた。
幸い待ち伏せはなく、呼び出されたときと同じ人数。

「最近よく一緒にいるのを見かけてて、やだなぁって思ってたんだよね」

五組の西井さんが腕組みをしてやよいを見下ろす。
モデル立ちとはこういうのか、と、頭の片隅でのんきな自分がいる。
なにも言い返すつもりはなく、必要に迫られない限りは怒りを全部受けようと思っていた。

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