ゆっくり、話そうか。
日下部の胸に身を預け、脱力といっていいくらいの弱々しさで涙を流す。
その間、日下部はなにも言わずに髪を撫で、彼女の気が済むまでやよいを抱き締め続けた。
涙と一緒に想いも洗い流せたら、そんな期待も僅かに感じながら、やよいは気の済むまで涙を解放させた。
体は預けきっているのにいつまでも抱き締め返さないやよいが、日下部には痛烈すぎた。

「悪いんやけど、このまま六限サボって帰るから、万智に荷物持ってきてもらえるように頼んでくれん?とりあえず保健室いくから」

好きなだけ泣き、五時限目も終わりに近付いた頃、やよいはようやく顔を上げた。
鼻声の過ぎる濁音混じりな音程で日下部に頼みごとをすると、遠慮無い手付きで涙を拭う。
目元はパンパン、腫れぼったい瞳はずっしり重く、泣いた後特有の気だるさが全身を支配していて、身動きも取りにくい。
こんな状態で六限目など受けられるはずもなく、最後の授業は無視して帰ることにした。

「分かった」

日下部も同意し、保健室へとやよいを誘導する。
寄り添うとまではいかず、けれど、いつやよいがふらついても支えになれる距離に位置を取って。
彼女の手を取った。
あまりに自然な流れで、そうしているのが当たり前のようなおさまり方で。
やよいが手を取られたことに気づかないくらいに。
やよいもまた、日下部がそうして手を取ったことに深い意味など無いと分かっていた。
泣きじゃくった子供なぐさめる、さっきと同じ衝動だろう事は理解している。
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