ゆっくり、話そうか。
ただ、胸が締め付けられるだけ…。
これにもっと深い意味があったら…と。

「またサボらしてもたね、ごめん」

「体育だったし、別に構わないよ」

前回サボったときは楽しかった。
二人とも同時にそれを感じて、同時に切なくなった。

「あっ、成績に…」

「響かない」

「そやね、日下部くん運動もできるしね」

肩を並べて通路を歩き、授業真っ最中で静かな空間に緊張を走らせる。
授業中とはいっても、自分達みたいにサボっている生徒がいないとも限らない。
ばったりそんな生徒と出会ってびっしょり濡れている姿を見られたら、それだけで厄介だ。
どうしたのかと訊いてこなくても、何かあったことを邪推し、噂話になっても困る。
それに付随させた、日下部とやよいの関係をいたずらにからかう類いのものからも、遠ざけたかった。
取り越し苦労かもしれないが、今はどんな面倒も受けたくない。
二人は足早に保健室へ急いだ。

「じゃあ小川さんに話してくるよ。二人がどこにいるか分からないからちょっと時間かかるかもしれないけど」

「ありがとう」

幸い誰にも出くわすこと無く保健室へ来ることができた。
ドアの前で二人、視線を交わす。
夏の暑さで、濡れた髪や服は早くも乾き始めていた。
いくつかの束に分かれていた前髪も、徐々にほどけてもとの場所へ戻ってきている。
見上げてくる瞳の色は普段より陰ってはいるが、大丈夫そうにも見える。

「離してくれやんと、入られへん」

保健室への道を塞いでいたのは日下部だった。
繋がった手が離れずまだそこにいる。

「あぁ…」

二人の手が離れ、手のひらに生ぬるい外気が触れても、ひんやりした感覚の方が強いのは熱を持ちすぎていたからか。

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