ゆっくり、話そうか。
初めて自分を、こんなにも嫌いになった。

日下部にもあんな顔をさせるくらいなら、場所など変えず廊下の真ん中で彼女達と対峙した方が、まだましだと感じた。
気遣わせてしまったことが恥ずかしかった。
些細なことではブレない自分はどこへいってしまったのだろう。
恋愛とはこうも人を弱くさせるのかと、大切な気持ちのはずなのに、手に追えない大きさを恨みそうになる。
こんな醜い自分は、きっとそのうち日下部にも見透かされるだろう。
そうなればもう、今みたいに笑いかけてはもらえなくなる。
ならば少し、ほんの少し、捨てようと思った。

「私なぁ…」

誰もいない部屋に、自分でも情けなるくらいに細い声がこだまする。
誰かに聞いてほしいわけでもなく、むしろ誰にも聞かれたくない胸の内。
ずっと音にしたくなかった心の声だったのに、今ある自分の惨めさや情けなさ、醜さをかき消したい一心で呟いた。
部屋のドアが開く音にも気づかずに…。

「フラれてん、この前」

止まっていた涙がまた流れ出す。
弱りきった自分に嫌気がさし、奥歯を噛み締めた。

「けっこうがっつりこっぴどく、おんなじ人に二回もフラれてん。みんなの前でな、フラれたし。関西弁もおもろい言われてボロボロやったけど、せやけど、まだ好きやねん。一緒にスマホ探してくれたり、優しくされたら嫌なはずやのに嬉しくて、これ以上好きにならんで決めて、自分にも好きにならさんて言いきったのに、できん…うまくできやんくて、やっぱり見てまうねん」

いつもいつも、日下部を目で追う。
絡まった視線から離れたくないと願う。
それがどれだけ自分を追い込んだとしても、自分から目を逸らせることなどできない。
したくなかった。
声が掠れる、語尾はもうほとんど吐息。


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