ゆっくり、話そうか。
#8 近付く距離と離れる距離

“土曜日、十二時三十分にあそこの土手だからねー”

先日、万智から届いた待ち合わせ時間のメッセージを読み返す。
スマホをしまい、荷物を持ったやよいがるんるん気分で家を出た。
先日のごたごたで痛んだ傷はもうほとんど癒えていて、今は休みの日に日下部と会える事で胸が一杯だった。

今まで見て見ぬふりをしていた気持ちを吐き出し、日下部に聞かれていたとも知らないやよいは、新たな一歩を踏み出せるくらいに回復していた。
押し込めることがどんなに自分を痛め付けるか、文字通り痛みをもって知ったといった具合だ。
これからはちょくちょくガス抜きをしよう、と。
あの日は日下部が用意してくれた自分の荷物を持って、誰にも見つからないように帰ることができた。
といってもずいぶんぐっすり寝てしまっていて、気付けは辺りも暗くなっていたため校医に家まで送ってもらった。
なので、その後何があったのかは万智からの電話で知らされて驚いた。

何と二人は、五組の西井さん他数名を捕らえたというではないか。
常にのほほぉんとしている尚太(失言)からは、想像もできないアグレッシブルぶり。
てめえら俺の友達に何しやがったと詰め寄り、講習の面前だろうが構わず暴言をはいたのだとか。
お前がフラれたのはお前のその腐った根性とひねくれた性格のせいだとか、腹いせに誰かを傷つけてスッキリするような奴を総司が好きになるわけがない、フラれて当然だ、等々。
結構なことを言っていたらしい。


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