ゆっくり、話そうか。
鞄の中からハンドミニ扇風機を出したやよいは、首にタオルをかけて日陰を探す。
土手の下、尚太と万智が来ても見えそうな場所に、鉄橋でできたよさげな日陰があり、一時そこへ避難した。
コンクリートの上にお尻を乗せて、扇風機を顔面に当てて待機する。
早く来ないかなぁと胸踊るやよいの足は、逸る気持ちを抑えきれず左右にリズムを刻んで揺れていた。

「なぁ、ほんとによかったのか?」

「だいじょうぶー」

一方、やよいと待ち合わせしているはずの尚太と万智は、何故か日下部邸の前で呼び鈴を押していた。

「後でやよいっち怒るんじゃねぇの?」

「恋のためならなんでも許しちゃう。尚ちゃんは私に合わせてにっこりしててね?何にも言わなくていいからね??」

不安げに万智の手を引く尚太に対し、余裕の万智が大丈夫と言いきる。
だが尚太は小首をかしげて訝しんでいる。

「やよいっちがあいつのこと好きになるとか考えらんねぇよ。あんなことされてさぁ。しかも総司クソ根性悪いし」

尚太はやよいの気持ちなど気付いてもいなくて、ましてや一度ならず二度までも撃沈していることなど知りもしない。
自分が二度目のトリガーを引いたくせに。
何故にそんなに言いきれるのか、万智が何を考えているのか分からない尚太をよそに、玄関のドアがゆっくり開いた。

「それ止めてっていったよね」

玄関を空けた日下部が、あいさつもすっ飛ばして開口一番不機嫌をぶつけた。

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