ゆっくり、話そうか。
「お待たせ」

日下部が声をかけるのと、やよいが石を投げ入れようとしたのはほぼ同じだった。

「ぅわぁぁ」

バランスを崩したやよいは、石をただ川へ放っただけになってしまった。

「あれ?日下部くん??なんでおんの?どうしたん?万智と寺久保くんは?」

あちこちに視線を飛ばせ、二人の姿を探す。
その度に、お団子に入りきらなかった後れ毛と、頭に乗せたタオルのはしがゆらゆら揺れた。
仕草が嫌に子供っぽく見えるのは私服のせいだろうか。

白いタンクトップにハーフパンツの黒いサロペット。
腰には膨らみを持たせて縛れる長めのレースリボンがついていて、普通のサロペットよりふんわりした腰のラインが作れて可愛らしい。
ひょろっと伸びる両足の膝には絆創膏が貼られているので、わんぱくなイメージが加算される。
膝の怪我は一応自分絡みなので、日下部としては複雑だが。

近くの岩に乗せていた横掛けの鞄を取り、上に乗せていたミニ扇風機を持ったやよいが、歩いてきたばかりの日下部に向ける。
至近距離から日陰にふさわしい温度の風が届く。

近いよ。
俺より君の方が必要でしょ。

汗だくではないものの、うっすら汗の浮かぶやよいの頬は上気して赤い。
くるっと返し、やよいの方へプロペラを向けた。

「直接二人に訊いて。もう家にいるから」

「えぇっ!もうついてんの!?えっ、私待ち合わせ間違えたんかなぁ」

違うね、
置いていかれたね。

< 163 / 210 >

この作品をシェア

pagetop