ゆっくり、話そうか。
石を拾い、数回手のひらで遊ばせた日下部が構え、角度をつけて腕を振る。
その華麗な姿が高校野球のピッチャーのようで、長い腕が軽やかにしなり、長い足がステップを踏むみたいに地面を蹴る。
やよいの目には、スローモーションに見えた。
投げる瞬間まで目が離せなくて、追いかけたその表情には純粋な笑みが浮かんでいた。

綺麗…

と感じて、体が震えた。

「あ」

「あ」

だが、結果は見事な川ぽちゃ。
いい角度で水面に入った石は、そのまま川底へ吸い込まれていった。
二人揃って同じ反応をしていた。

「やっぱ出来ないんだなぁ」

子供の頃に出来なかったものがいつの間にか身に付いているはずもなく、最後に思い出した結果となにも変わっていなかった。
けれど記憶の追体験はそう悪くなく、塗り替えてやろうという意地さえ呼び覚ました。
また石を探して掴み、何度も角度をつけて投げ入れる。
やよいはその一瞬一瞬を目に焼き付けようと、川と戯れる日下部を追いかけた。
何度も何度も、失敗しては石を掴んで投げる。
どれくらいそうしただろうか。
水面に石を与えただろう。

「壊滅的に下手くそやね」

ポカンと口を開いたやよいが、あまりの事に驚きを隠せず呟いた。

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