ゆっくり、話そうか。
日下部の放った石は、一度も水面を駆ける事無く消えていった。

「ほっといて」

何をやってるんだろう、俺。

高校生にもなって川原でこんなにはしゃぐなんて、完全に想定外だった。
やよいに釣られたとはいえ、途中から自分もけっこう楽しんでいた。

「勉強教わるお礼に教えよか!」

日下部が答えるのを待つつもりもなく、やよいがどこまでも水面を切れそうな石を探し始めた。
日下部も同じく石を吟味し、体を屈めて地面を見る。
陰限定で。
だがやよいは陰のそとまで探しにいくので、何度も呼び戻した。
そうやってやよいの探してくれたものも合わせて、ずいぶんいい石が手に入った。

「………………………………ごめん、私やったら教えられへんわ」

「派手に落ち込むの止めてくれない?」

結果は惨敗。
やよいのミニ扇風機で涼みつつ全ての石を投げたが、水と戯れる姿を拝むことはできなかった。
悔しさが募る。
下手に落ち込むやよいの姿より、喜んではしゃぐ彼女を見たかったというのが本音だった。
きっと盛大に喜んでくれただろうから。

何を期待してるんだ、俺は。

額の汗を軽く拭った日下部が左右に頭を振る。

「はい、もういいから。そろそろ戻るよ」

やよいに期待しそうになった願望を捨て、右手首のつごつした黒い時計を確認する。
ぎょっとなった。
家を出てから四十分以上経過していた。

「そやね、二人待たしたままやんね」

首筋に汗が光る。
日下部にミニ扇風機を向け、タオルを首に引っ掻けたやよいが片手でデオドラントシートを取り出した。
それ以上は片手では進まず、中から一枚引き抜くのは不可能と判断した日下部がミニ扇風機をやよいの手から拐う。
ありがとうと言って一枚取り出し、それを先に日下部に渡す。
例の肌体感マイナス5度のやつだ。

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