ゆっくり、話そうか。
入った瞬間、日下部の香りがして、それだけが唯一落ち着ける要素だった。
いつも不意に日下部の香りがするだけで緊張していたのに、今は覚えのあるものが傍にあるというだけで安心できる。

「お茶いれてくるから待ってて?二階の奥の部屋。多分あの二人うるさいだろうからすぐ分かるよ」

「はーい…」

足の汚れがまず気になり、日下部が近くのドアの向こうへ消えてすぐ、デオドラントシートを取り出して靴下の上から拭いた。
こんな綺麗な廊下に足跡などつけられない。
数歩歩いただけの廊下もチェックし、汚れていようがなかろうが、そんなこと関係なくシートを走らせた。

いや、けど、
ひろい、おっきい、でっかい、豪華。

まず天井の高さよ。
そして玄関の広さよ。
白が基調だからかより広く見え、清潔感にも溢れている。
ここで日下部が生活しているのかと思うと、その空間に自分がいると思うと、なんだかそれだけで胸が苦しくなった。

「あれ、なん…電気?」

天井を見上げると、丸くて白い間接照明が連なってぶら下がっている。

埃はどう取るんやろう…。

高い天井、脚立でも手が届かないと思われる場所の掃除が最初に気になった。
ベースは白だが差し色的扱いか、淡い赤が塗られた壁には写真が飾られていて、おしゃれなホテルのロビーを連想させられる。
おしゃれなホテルのロビーなど入ったこともないが。
左手には向こうが見える階段が二階に繋げていて、昇りきった先は今やよいが立っている頭上に続いていた。

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