ゆっくり、話そうか。
そこでようやく、自分の失言の数々を悟った。
ヤバイ、と、後悔してももう遅かったが。

微妙な空気のまま始まった勉強会は、皮肉なことに軽口を叩けない状態の緊張感で、誰もが真剣に取り組む結果となった。
必要なことは喋らない。
日下部が事前に用意しておいた、というか日下部が自分用に作成していたテストの出題予想範囲をもくもくと頭に入れる。
日下部は自分の机、残り三人はローテーブルで各自シャーペンを走らせる。

消ゴムをかける音、シャーペンの走る音、呼吸、閑静な住宅街からは車の行き来する雑音しか届かず、勉強にはもってこいの環境だった。
やよいにとっても、余計なことを考えずにいられてかえってよかったのかもしれない。
問題をただ解き、用語を覚える。
分からないことは完璧な日下部のノートで補足し、自分のノートへも書き加えた。
こんなにはかどったのは久しぶりじゃないだろうか。
望んだ結果ではなかったが、今日の主旨としては大成功といったところである。

と、身動きの取りにくい空気を割って、玄関の呼び鈴が鳴り響いた。
金の音のような、海外ドラマでよく耳にする音。

「誰だろ。待ってて?ついでにお茶も淹れ直してくるから」

居留守の選択肢が無い日下部。
飲み干したグラスもまとめてトレーに乗せて、下へ降りていった。

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