ゆっくり、話そうか。
考えてみれば女性のお腹の音なんか聞いたこともなく、例えば鳴ったとしたら恥ずかしさに小さくなってしまって何も言えなくなってしまう姿しか想像できない。
こんなに堂々として、恥ずかしいと言いながらも笑える精神力はきっとこの子の美徳なんだなと感じた。

「じゃあ帰ろか。日下部くん送っていくわ」

「は?いや、いいよ」

次々訪れる予想もしなかった展開が都度日下部には斬新に刺さる。
やよいにとっては当たり前の提案であったが、自分と日下部のポジションや立ち位置を考えて「あぁ」と思い当たった。

「違うで?別に一緒におりたくて言うてないから」

「分かってるよ。でもそれ、俺が言うべき事だし。送るよ」

「送ってくれんでいいよ。もうすぐそこやし一人で帰れるし」

お互いに送る必要がないのであれば取るべき行動は一つで。

「じゃあこれで、どうもありがとうこざいました」

日下部の返事も待たずに土手を登り、一人先に帰路に着く。
次は落とさないよう、しっかり鞄にスマホをしまって。
その姿を見届けてから、日下部も自分のバックパックが置いてある場所へ移動し、乗せてあったスマホを放る。

「日下部くん、ごめん、ちょっと」

呼ばれて顔を上げると、帰ったはずのやよいが土手の上にいた。

「またなにか落とした?」

「そうやなくて、えーと、これ、お礼。いくで?取って?」

「え、ちょっ…」

ひらっと何かをちらつかせたかと思ったら予備動作も少なく投げてきたので、慌てて掴み取る体勢を作る。
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