ゆっくり、話そうか。
それは私にも言ってる?
じゃあなんで…。
これは、どういう意味?
思わず手を握り返した。
すると日下部も返してくる。
誤解して、期待を通り越してしまいそうだった。
自分の気持ちを勝手に見積もられた事が地雷だったのか、元彼女からまた涙が流れ出る。
「意地なんかじゃないっ、私は本当にっ」
「俺の何がいいの?」
「え…」
「ここまで言われて、俺の何がいいの?」
馬鹿にするのではなく、ただ、真相を知りたい。
自分の何に、こんな事になって、よく知りもしない第三者の前でここまで言われてもなお食い下がるくらい、自分に何があるのか、ただ知りたかった。
食い下がるわけでもなく、ただひっそり想ってくれているやよいの根底も…。
元彼女は下を向いて自分の手を握り、自分が好きになったきっかけを思い出す。
「それでも…、きついこと言っても、優しいところ。自分をちゃんと持ってるところ。いつもブレてない強いところ」
その意見には同感だった。
完全に同感ではないけれど、概ね自分と被る。
そうやって日下部を見つめる最初になったのは、彼が心にずしりと響いたから。
だから元彼女の気持ちが分かるとはまではいかないまでも、想像することはできる。
きっとその最初は心が暖かかったはずだ。
「なるほど…」
日下部が苦笑する。
そして伝える、感謝の「ありがと」と否定の「でも」。
「俺が優先するのは、幸せなんだ。一緒にいてただただ幸せだと思える人でないと駄目なんだ。イライラさせられたりやたら腹が立つ人でも、それでもその人といるといつも幸せだと思える…そういう人でないと駄目なんだ。君にはその感情を抱けない。俺には君じゃない」
───俺には君じゃない───