ゆっくり、話そうか。
目の前が暗くなる。
これは自分にも向けられた言葉だったのだと、認めるより他無い。
だからこの場にとどめたのだと、闇に含ませたのだと感じた。
ならばもう充分伝わった。
この場にいる意味はなく、もう何度も砕かれた心をかき集めたくもなく、繋がれた手をほどこうとやよいは身を捩る。
だが日下部の手はやよいを握ったまま。
やよいがほどこうとする度に、力が込められる。
幸せはどうお仕着せても届かない。
他者のサイズにぴったり合わない。
自分の想いもお仕着せだったのかもしれないと、それを認めるだけでは足りないのだろうか。
日下部はまだ、届けるつもりもない想いまで砕こうというのか。

そんなに迷惑だったのか…。

やよいの自尊心も想いも、ずぶずぶ沈んでいく。

元彼女の駆け出す足音がし、気持ちも自分自身も土に埋もれる寸前だったやよいが顔を上げた。
すると繋がっていた手が離れ、日下部がゆっくりやよいに振り返る。
生ぬるい空気が、日下部の代わりに手のひらを撫でる。

あ、
私も…砕かれる…。

直感がして、ならば最後の瞬間を一時も目を離さず焼き付けようと、日下部に向き直った。
ふっ、と、口元を緩めた日下部もやよいを見つめる。

「園村さんに、知っておいてほしくて」

そう、もう分かった。
分かってる。

後は完全に切られるだけ。
覚悟を決めて、二度と気持ちを悟られないよう日下部から離れることを誓った。
この気持ちが肥満になって、手がつけられなくなる前に、日下部と縁を切ることにした。
なんの縁かは分からないけれど。

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