ゆっくり、話そうか。
ヒールの音が響く。
蒸せ返る香水の匂いが、嫌に香った。

「親がいないと分かっていながら男の家に上がり込む女もどうかと思うけれど、同類は同類を呼ぶということかしら?」

同類?
どういうことや。

まるっきり蚊帳の外、まるっきり状況と情報の読み取れないやよいには母親らしき女性の言っていることが分からない。
ただただ不快で、この上なく嫌な人、ということしか。
日下部の母親かもしれない人に対してこんなことを思いたくはなかったが、そう思えないでいるのは到底無理そうだ。

てか、同級生の家に遊びに来ただけやし。
それだけやのにどんな飛躍のしかたや。

人の家に無断で上がり込み、どんな何をしていたのか無理にでも想像させる言い方に腹が立つ。

「彼女への侮辱は止めてもらえませんか?恥をかきますよ、あなたが。いい大人が子供を罵って、よく知らない人の前で醜態をさらすなんてみっともない」

やよいに目を向け、「ごめん、母」と呟く。

「構わないわ。私の言っていることは事実だもの。それにあなたのご友人とやらにどう思われようと私には関係の無い人間なんだから、そんなことは取るに足らないことよ」

自分に対し、従うか従わないか、大切にすべきかどうか、彼女の中にはそれしかないといった口ぶり。
到底力が及ばないと分かっているやよいの評価など、存在しないも同然ということなのだろう。

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