ゆっくり、話そうか。
「何も知らん人間相手に家庭の事情暴露したのはそっちや。どう思われても気にせんみたいに言うたんもそっちや。私になにも知らんって言うなら、なんにも知らん人間にこんなこと言わせやんかったらええやん。あんなこと、子供に言うそっちこそ、お里が知れるわ。私はいくら年が上やろうがなんやろうが、精神的に子供な人間は大人やとは認めやん」

両手を握りしめて、怒りに震えながらやよいが感情をぶつける。
キャンキャン騒ぐのとは対照的なやよいの姿に、日下部の胸が締め付けられるように唸った。

いつもはわたわたして咄嗟の事には対応できないことが多いのに、こういう時は人が変わったように男らしいやよいに心底驚いていた。

深く息を吐いたやよいが一度日下部を振り返る。
なにか言いたそうに口を動かしたやよいが唇を噛み、一つ頷くと再び前を向いた。
やよいの震えは‘震え’ではなく、‘奮え’だと感じた。

「そんなにいらんなら、私が引き取ります!私は欲しいです!」

やよいのアルトの効いた声が辺りにこだまする。

うわ、最悪、なに言うてんのっ!

自分で言っておいて激しく動揺し、真っ赤になったやよいが「待って」と両手をつき出す。

「あ、や、ちょっと待って、なんか、変な言い方になってしまったな…」

なかなか立派な啖呵、いや、プロポーズに近い断言を受けた日下部が、やよいの後ろで盛大に吹いた。
腹を抱えて笑っている。

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