ゆっくり、話そうか。
「バナナは、おやつに、入りますか?」

背伸びをして、内緒話をするように担任に顔を寄せ、同じことを小声で訊いた。
たまらず担任が吹き出し、口に手を当て「すまん」と咳払いする。
やよいの頭に手を乗せると、ポンポン軽くタップさせて微笑んだ。

「大丈夫、何本でも持ってこい」

入ります、と言われたらどうしようかと思っていたやよいにとっては朗報で、心底安堵した呼吸が漏れた。

「あぁ~よかったぁぁ」

胸に手を当てて振り返り、席に着こうと顔を上げると、クラスのほとんどがにやにや顔でやよいを見ていた。

なんや、みんな知りたかったんやん。

突撃質問がいい方向へ転がり、鼻高々な気持ちになったやよいが「何本でも持っていけるらしいで」とドヤ顔で伝えた。
何とも形容しがたい笑いがわき、「やったー、俺も持ってこー」などあちらこちらで声が上がっている。
これはからかわれていると即座に感じたが、問題が解消されてスッキリなやよいにはもうどうでもよかった。

「私も持ってくよ、バナナ」

「俺も持ってくから、バナナ」

席に戻ると万智と尚太がニコニコしながらピースした。
やよいもピースを返し、

「小学生みたいなことを」

とぼやく日下部には「ほんま嫌なこと言う」とこっそり呟いた。
キャンプについての話し合いもその日のホームルームで無事に決まり、後は当日を待つのみとなった。

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