ゆっくり、話そうか。
「おっと、園村ぁ、ちょっと待ったぁ」

いよいよキャンプも明日に迫った放課後、日直日誌を職員室へ届けに行ったやよいが担任に呼び止められた。
放課後に担任が生徒を呼び止める時は、決まって何かしらの小言か用事を押し付けると相場が決まっているので聞こえないふりを貫きたいところ。
しかしバッチリ目も合い、お互いがそこにいることを認識しあっていては逃げられるはずもなく。
帰ろうとしたがる足を強引に引き戻し、手招きする担任のもとへ引きずっていった。

「なんでしょ」

「あのさぁ、悪いんだけど俺これから職員会議で抜けらんねんだわ。これコピー室運んでくんね?で、学年分コピー取って綴じといてよ。キャンプの時の配りもんなんだけど」

と渡されたのはずっしりしたコピー原本。
パソコンで飛ばしてやればいいのにと言いたいが、飛ばしたところで綴じることも必須なため、職員会議で席を外せない担任としては自分でやる選択肢は無いに等しい。
職員会議が終わってからやったとして帰宅は何時になるんだろうか。
夜中、は、間違いないだろう。
ゾッとする。
夜中の学校で一人コピーと格闘、そこかしこから家鳴りがしたり…。
思わず恐怖の声が出そうになった。
明日もきっと生徒の引率やらで忙しく、充分な睡眠を取らないと中途半端に若くない担任なら倒れてしまうかもしれない。
最近の教師は過酷と聞いている。
だがしかし、一人でコピーを取る選択をしたらワンチャン同僚の女教師が手伝いに来て二人はいい感じに、というスクールラブが起こるのではないか?
その可能性を考えてみたらどうなんだ。
目力で訴えてみるが伝わらなかったらしく、「恨みがましい目で見るなよ」と軽くあしらわれてしまった。

「いっぱい時間あったのに…何で今日までほったらかしてたんですか」

「じゃよろしくー」

「………はい」

しょんもりしながら職員室を後にし、帰宅願望満載で靴箱へ向かおうとする足を一発叩いた。

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