ゆっくり、話そうか。
往生際が悪いぞ。
放課後の少し物悲しい雰囲気に包まれた廊下は、部活に勤しむ生徒の声がよく聞こえる。
金属バットを叩くボールの音、歓声、笑い声、吹奏楽の滑らかな音に混ざる未熟な調べが心地よい。
自分の足音がそれに合わさり、何かの音楽を聴いているような気持ちなる。

まぁ、悪くはないけどなぁ。

こういう雰囲気はむしろ好きな方で、一人教室で日直日誌を書いているときも落ち着きさえ感じる。
自分が今、目まぐるしく変化する高校生という時間を満喫している証拠のような気がして、やけにこそばゆくなることもあった。

だから言うてもなぁ。

コピー室の前、原本を抱き締めながら自分に課せられた任務の重さにげんなりして、扉を開く前向きさを出せないでいる。
しかしいつまでもこんなところで突っ立っているわけにも行かず、やる気を振り絞って勢いよくドアを開けた。

「ぬぉわぁぁぁっ!」

開けてすぐ、誰もいないと思っていた教室に人がいるのが見え、原本を強く握りしめて叫んでしまった。

「なんて声出してんの、女の子が…」

「あれ?日下部くん、なん、なにしてんの?」

そこにいたのは日下部で、先程の野太いやよいの声に「なかなかの声量」と苦笑している。
まさかの助っ人か!?

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